星屑の煌めき
(無双/郭嘉)その先に絶望しかなくても
「……」
「……」
「……」
「……あの」
「ん? なにかな、ザビ子殿?」
「いや、なにかなじゃない郭嘉。まじまじこっち見んの止めて貰えませんか?」
「おや、照れておいでかな?」
「いやぶん殴りたい衝動が湧き出る。もうわたしとこの子の二人にしてくれない?
見ての通りわたし今物凄い体力消費したからゆっくりしたいんだよ、産婆達も下がらしたし、ゆっくりしたいんだよ」
「もう少しだけ傍に居させて欲しいな、この夢が醒めないうちに網膜に焼き付けておきたいんだ。
今の幸せを────この短い命に克明に、刻み込みたいんだ」
「っ……ば郭嘉。そんな事言うのは、狡い」
「ははは、私は狡いさ、狡いからこそ貴女を手に入れ、天下も取ろうとするんだ」
「産後間もないわたしに戦地に赴けと仰るかこの軍師は」
「そんな性急な性分ではないから、ザビ子殿はゆっくり身体を休ませると良い」
「うんその気遣いの言動一致しないのは何故かな。もうこの部屋から出てって欲しいんだってば」
「ザビ子殿は…………何故、そのように私を隔離したがるのだろう」
「隔離したがるっていうか、察してよ稀代の軍師……」
「愛らしい我が子と愛しい人とずっと痛いという健気な私を突き放すだなんて、随分と悲しい事を言ってくれる妻だね、ザビ子殿は」
「こんな時だけ夫振るな、巡りいいくせにわざとやってんじゃないか、ホントは」
「本当に私には分からないのだけれど、ね」
「……。あのね、今のわたし産褥期な訳なの。赤子を産んだとは言えまだお腹出てるの。
そんなみっともない姿、好きな人には見られてたくないって事よ、察して下さい軍師殿……」
「────そうだったのか。そういう意味だったのか。
ザビ子殿もなかなかに可愛らしい一面があるんだね? なんだかとても新鮮で、嬉しい限りだ」
「そんな訳だから──────下がれ郭嘉。用があれば呼びつける」
「″君主様″のご命令とあらば仕方ない、かな。大人しく下がります。
でも、最後にひとつだけ。わがままを聞いては貰えませんか?」
「なに?」
「私にも、抱かせては貰えませんか?」
「……ちっちゃいわがままだなぁ。どうぞ旦那様。首に気をつけて抱いてあげて」
「────……嗚呼、なんて素晴らしいのか。
こんなにも可愛らしい子は見た事がない……こんにちは、私があなたの父上だよ」
「ふふ……郭嘉、表情崩れすぎ。まだ目も開いてないんだから郭嘉の顔も見えてないんだよ」
「そうだとしてもこの子の目は総てを見通せる筈だ、なにせ私とザビ子殿の子供なのだから」
「生まれた瞬間から親ばか炸裂とか止めてください。
……でも、まあ、なんとなくだけど、その気持ち分かる。愛しさが内側から溢れだして止まない。
ねえほら、見て……この子の目元、郭嘉に似てる」
「そうかな……そうだと、とても嬉しいね。
────ザビ子殿、お疲れ様。有り難う、この子を産んでくれて」
「────……。こちらこそ、こんなわたしと一緒になってくれて、ありがとう、郭嘉。
この子の為にも、早くこの乱世、終わらせなきゃね」
「問題はないよザビ子殿。私と貴女が揃えば敵はないのだから。この戦もすぐに片がつく。
前線部隊からの伝令で我が軍は優勢であるとの報告を受けた、幾つかの策を渡しておいたからもうじきに終わる」
「抜かりなし、か。──────流石だ、郭嘉。わたしが惚れただけはある。
うむ。ならばわたしも早く身体を元に戻さなくてはな」
「ゆっくりしていても良いんだよザビ子殿は。この子と少しでも一緒に居てくれた方が私も助かる」
「うんまあ、今ゆっくりするけどね。あと三日もしたらわたしも戦場に戻る。
世話は乳母に任せるが致し方ない、わたしには休んでいる時間はないのだから」
「やれやれ、ザビ子殿は母である前に君主である事を選ぶのですね……承知しました。
では業務連絡も個人的な時間も終わったので私は当初のご命令通り下がります、なにかあればお呼びつけ下さい」
「大儀であった。──────あ、待って郭嘉!」
「? なにかな、ザビ子殿?」
「名前、この子の名を考えてない、郭嘉が付けてあげて」
「私が名付けても良いのかな……?」
「うん、っていうか、郭嘉の方が良い名を付けられそうだし」
「ではお言葉に甘えて……そうだな、なにがいいのだろう……。
──────『阿鶫』、というのはどうだろう」
「…………阿鶫、良い名をもらったね、お前」
「嗚呼、長居が過ぎたね。ザビ子殿、ごゆっくりと休息を取られると良い」
限りない可能性がそこに広がるのだから
「殿、この度は御嫡男誕生、誠に御目出度き」
「玲綺待ってよ〜。あ、ザビ子見てみてこのおくるみ超可愛くない!? あたしの手作りなのー!!」
「鮑三娘と呂玲綺か、わざわざすまんな」
「ぅわ、赤ちゃん超カワイイ!! ねね、抱っこしても良い?」
「貴様っ、若様に無礼だぞ!!」
「まあまあ。良かったら玲綺も抱いてあげて。きっとその方がこの子も喜ぶわ」
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