星屑の煌めき




(無双/くのいち)諸国漫遊津々浦々、黄昏の旅





「諸国を回って旅をするってのは楽じゃない。
行く先々でなにかしらの戦に巻き込まれ、翻弄され、苦しい思いをしなければならない。
……全く、当初の予定が狂った。これも全てあの古狸の所為だ」

「まー、それでも依頼を受けちゃったザビ子さんが悪いんでしょー?
現実を受け入れて向き合いやしょーよ、にゃははん」

「それを言ってくれるな、くのいち……それもそうなんだが、イマイチ釈然としないというかだな?
それを受け入れたらあの狸の勝ち誇る憎らしい顔が瞼の裏に浮かぶと言うか」

「そういや、ザビ子さんはなんで諸国漫遊してるんですかい?」

「わたしか? 有り体に言うなら士官先を探していたんだが、どこも門前払いで帰されてな……。
その都度そこでひと悶着起こしてしまい、腕っ節があがり、ならばいっそ牢人として過ごすかと思って。
諸国漫遊は、まあ、ちょっとした旅をしたいなという願望を叶えたまでだ、ついでだな」

「そーだったんですかい。でも武田には来なかったんすよね?」

「んー…………武田は、知略を重んじる節があるだろう?
わたしは武力しかないから、受けるまでもないと思ったんだ。
……まあ、間者として雇われたのはなんの因果か分からんがな……」

「え〜、そんな阿呆みたいな理由だったんすかぁ!?
お館様はそんな安易な基準で合否決めたりしやせんぜ多分っ」

「そうか……なら、ハナから素直に武田に仕官すればあの古狸に捕まる事もなかったのか……あのクソ狸、いつか絶対殺してやる」

「ま、どうだかあたしにゃ知る由もないけどね、にゃははん☆」

「この小悪魔さんめ。今時の忍びは小悪魔系がキてるのか。
っと、小田原城が見えてきた。北条氏康公に挨拶していくか」

「ザビ子さんもなんやかんやで真面目だにゃあ」




◇ ◇ ◇






「相変わらず氏康公は気持ちの良い御仁だな。流浪の身にも優しい」

「そっすねー。氏康の旦那は粋で渋みがあって堪らないっすね」

「むぅ、なかなか分かってるじゃないかくのいち。ああ言うのを誰からも愛される領主っていうんだろうな、うむうむ。
見習わなくてはな、わたしもああなりたい」

「えっ、あんな無精髭で胸毛の筋肉中年になりたいんですかいザビ子さん!?」

「中身だ中身、領主としての器量の話だ。見た目じゃない。
いや、でも、男として生まれるならああなりたいとは思うけどな、渋いし気骨があって素敵だ……」

「ちょっ、なに頬赤らめてるんすか。好みなの? ザビ子さんてばあんなのが好みなの? うげろ〜」

「なよなよしてるよりは良いと思うがなぁ……頼り甲斐があって、あの胸板に飛び込みたくなる」

「マジっすか、理解出来ないわー、それ。
と、そういやお土産なに貰ったんですかい?」

「……なんだろ、開けてみるか。
どれ、よっこいせ────梅干し、だな」

「梅干しっすね」

「見紛う事なき梅干しだな、食料に変わりない、旅には保存の効くものが良いし有難い。
まあ米がないのが問題なのだが、干し飯で我慢するしかないな」

「保存食として有難いっすよ梅干しは、忍びも重宝してたりしやすぜ?
とゆー訳で、あたしにも一粒ちょーだいっ♪」

「無論だ。……はい、氏康公に感謝を捧げてご相伴なさい」

「にゃははん、いっただっきまーす…………すっぱ!! んん〜、疲れた体に染み渡る酸っぱさ〜♪」

「うむ、では一度甲斐の国へ戻るか。
信玄公への定期報告も兼ねて挨拶をせねばヘソを曲げる。
くのいち、安全な近道の案内を頼む」

「お任せ下さいってね〜、さー風魔の旦那が潜んでそーな森を通りやしょーか」

「くのいちさんくのいちさん、安全ってなにかね」








































贖罪の旅路、終わりは見えなくても

「風魔の旦那にはもれなく可愛い子犬がついてやすぜ」
「ぐっ…………騙されぬぞ、安全な道を……子犬……」






























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