極楽蝶華
3
「何って……薔薇の茂みに手ェ突っ込んだら傷だらけになっちまうだろ。」
突っ込まなきゃ取れないぢゃないですか。
『そん中に落としモノしたんですよ。』
「あぁ……なんだ。取ってやるよ。」
覗き込んでから、ためらい無しに手を伸ばすこの人を急いで止める。
『えっ。ちょっと何してるんですか。』
「……拾うんだろ?」
『今自分で【傷だらけになる】って言ったじゃないですか。…怪我しますよ?』
「いいんだよ、別に。」
いやいやいやいや。
『良く無いです。今日初めて会った人にそんな迷惑かけられません。』
清く正しい不良は礼儀に厳しいんだぞ。
「……うーん。……俺がやりたいから、いいんだよ。別に。」
そう言って茂みの中に頭から入って俺のカツラを取ってくれた。
「はい。」
幾つか付いてきた葉っぱをぽんぽん、とはたき落として返してくれる。
『……ありがとうございます……でも、ほんと……』
「や、蹴り込んじゃったの俺だし。
……イライラしててさ。ごめんな?」
そう言ってくれてるが、半袖から出た腕には所々真一文字に赤が走っている。
『……確かHR棟に保健室がありましたよね。』
「あぁ。」
『連れてってもらえますか?せめて傷の消毒くらいやらせてください。』
「いや、それは嬉しいけど……連れてく、って言うのは?」
『俺迷子なんです。』
壮大に笑われた。
別にいいじゃーん。ぶー。
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