極楽蝶華
計画犯罪
あれだ。
場所的には俺の左横に獅子緒先輩が立って、俺の向かいにいる先輩達に背を向けるように悠紀仁が立っている。
そして、多分、なんて仮定は付ける余裕無しに獅子緒先輩が悠紀仁に覆いかぶさるようにして唇の上端に口付けてるのはあっちから見ればキスを見せ付けてる様に見えるのを分かってやっているんだ。
「ユウに近寄ったら殺す」
と言ってる目も、この犯行が計画的だった事を物語っている。
「レオ、そろそろ離れな。」
「……分かった。」
まるでシブシブ、と聞こえてくるかのように名残惜しそうに悠紀仁から離れる。
少し不機嫌そうに体育館の壁に寄り掛かる姿は本当にご主人様の帰りを健気に待つ猫だ。
留守番、みたいな。
「……峰、鈴峰!!」
『……なんすか?』
小声で自分を呼ぶ声に、頭を動かしてその方向を見遣る。
俺を招く様に急いて上下する手に引き寄せられて、傍に寄って先輩達の焦ったような声色に耳を傾けた。
「オイ……彰、獅子緒さんてユウちゃんと付き合ってんの?」
『えー……と……』
確かにここで俺が
『そうです。』
と言えばもう金輪際口説こう、なんて気は起きないし話が広がればユウ、に近づこうとする奴さえ出てこないだろう。
それくらい獅子緒先輩は怖いし強いし力がある。
……だが……
それが悠紀仁の耳に入って怒られるのはやだなぁ。
アイツ怒ると結構怖ぇんだよ。マジに。
それに友達に嫌われたくないし……ここは本当の事を言おう。
事実でも十分牽制できる。
ホント十分に。
『いや……付き合っては無いんで』
「マジで?!やっ……た望みアリ?!!」
「良かったさっきちょっと調子に乗って尻触っちゃったから死ぬかと思ったのに!!死を覚悟したのに!!」
話を聞け先輩コノヤロー!!
これだから体育会系はッ……!!
ってゆーか部長あんた何中小企業の管理職みたいなセクハラぶっこいてるんですか。
それ獅子緒先輩見てたら付き合ってる関係なしにアナタ殺られますよ。
『……ッては、無いんデスガ!!
……ここ大切なんでよぉ〜く……聞いてください。』
悠紀仁が近づいてくる前に何としても話を終わらせないと……!!
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