極楽蝶華
…アンタ何なんだよ。
途端、いつもと足りないものに気付く。
そーだ。俺カツラと眼鏡してないんじゃん。
つまり、この人は本来なら俺の事を自分の生徒、とは認識できなかったはずなんだ。俺このかっこで授業受けたことないし、世界史は選択授業だから。
まぁりょーちゃんみたいな人なら見覚えのない生徒もこき使うだろうけど、さっきの今で警戒すべきだった。少しは。
ネクタイも着けてないのに、最初に1年生、って呼ばれた時に。
つか何でコイツは俺の本名知ってんのよ。
『……アンタ……ぁに?』
本格的に呂律がヤバイ。
身体も力を入れそうになるたび、伝達された指令は強い痺れに似た感覚を伴って脳みそに帰って来た。
正座して足が痺れて、立ってすぐのまだ痺れの波が来てない、触ると筋繊維がくすぐったくなる様な、そんな感触が全身に起こる。
「……写真は見ただろう?」
『……アンタらったんかよ、チャレンジャー……』
頭の方は痺れてて、口を開くのも億劫だった。
「……なんかよく分かんないネーミングだね。」
俺のすぐ横に腰を下ろして、野村が自分の膝の上に頭を乗せて髪の毛を撫でてきた。
酷く不愉快な触り方だった。
『なんれわざわざ俺なんれすかねぇー……』
指先を動かしただけで、肩まで疼きが走る。
オイオイオイ……なんか変な薬じゃねぇーだろーなぁ……後遺症残ったら訴えたる……。
「君だから、わざわざ、なんだよ。」
言われた事の意味を働かない頭を使って必死に考えた。
まぁ、心当たりもないし皆目検討すらつかない訳なんだが……
突然シャツの裾から手が入って来て、一気に頭が混乱した。
何がしたいんだ、どうするんだ、
『……っはぁ?何してんれすかアンタ……』
ひざ枕を外し、上からのしかかる様に覆いかぶさってくる、大人の男。
手は執拗に自分の肢体を撫で回し、息荒く捲くり上げたシャツの下に口付けていた。
……何してぇの?
力の入らない身体を何とか動かそうと、脱力した筋肉の操作を始めた。
「……息荒くして……感じてるの?」
言葉と共に乳首を抓り上げられ、顔が歪んだ。
ちげぇよ手足動かなくてイライラしてたんだよ。
「……可愛い……」
『……わぃくっ……ねぇっ……』
ついつい、そこだけは否定したい。
見下ろしてくる野村を睨み付けた。
「……駄目だ。」
いきなりズボンのベルトに手をかけてきた。
勝手やってきていきなりダメだしかよ、と内心イラッとしたり。
しかもどこ触ってんのこの人。
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