極楽蝶華
重いんだよ資料とか。
「あぁ、ありがとう。
そこに置いてくれるかな?」
『……ほーい……』
あぅあぅあぅ。
肩抜けるっつぅーの。
重いわ紙ぃっ!!
「ありがとう。助かったよ。コーヒー飲むかい?」
『あー……ありがとゴザイマス。』
肩をぐるぐる回しながら暫く関節の軋みに顔を歪ませていたら、後ろから香ばしい良い匂いが漂って来た。
あ、そーだそーだ野村だ野村。
危うくネームプレート付いてなかったらわかんねーとこだった。うん。
りょーちゃんセンセなんかネームプレートどころかネクタイすらしてないときあるからなぁ。
「はい。」
『あ、どーも。』
鼻を近づけると、ふわぁ、と鼻孔をくすぐる香りが漂ってきた。
これ高そうな匂いだなぁー。美味しそうだからブラックで飲むか。一旦顔をカップから離して、窓の外に顔を向けた。
「……飲まないのかい?
砂糖かミルクがいるかな?」
眉を寄せた野村先生に、気分を悪くさせたかな、と少し思案した。
『猫舌なんです。』
「あぁ……そうなんだ。」
『あ……それ、天体望遠鏡ですか?俺も星好きなんですよ。』
と、窓際に置いてある三脚の着いた黒い筒を指差してみたり。
カメラついてる。写真も撮るのかな?
「いや……それはね、星を見るための物じゃ無いんだ。」
……は、話が続かない……
会話が出ないことに気まずくなり、一緒に出されたクッキーをつまんだ。
おぉ、うまい。
立ち上る湯気の量が少なくなったことを確認して、ふーふーやってからソロソロと唇を浸す。
少し傾けて、口の中に濃褐色の液体を流し込んだ。
まだ少し熱かったが、いれてくれた珈琲はとても美味しいものだった。
いい匂いだなぁー、やっぱ高いんだろうな、なんて思いつつ。
生徒会室のアイスコーヒーも旨いんだよな、と思い出していた。
『あー……珈琲ご馳走様でした。俺寮に帰りますね。』
「なんで?」
『いや……とっくに放課後ですしぃ……あぇ?』
立ち上がろうとして、足に力が入らない。
心なしか呂律も怪しい。
「折角悠紀仁から僕のところに来てくれたのに。
……こんな素晴らしい偶然、みすみす見逃さないよ?」
とうとう腹筋も上半身を支ええ切れなくなり、ソファに倒れ込んだ。
顔面から。
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