極楽蝶華
56cm……
『悠紀仁様、制服のサイズを教えていただけますか。』
見本が入っている箪笥を漁りながら悠紀仁様の方に顔を向けた。
少し言い淀んで、小さめにボソボソ呟く。
「……ワイシャツはSで。ズボンのウエストは確か……56pです。」
「細っ!!悠紀仁ちゃんと……食べてるよね。何で肉付かないんだろう。」
自分もそれを聞いてびっくりだった。
『56pは……無いですね。』
既製品でそのサイズは存在するのか。何インチなのか見当すらつかない。おそらく買うときオーダーしたのだろう。
「あ、いいです。部屋で洗えますし……夏物は4本作りましたから。
ワイシャツだけ貰えますか?」
『どうぞ。』
「わ、悠紀仁髪の毛も蜂蜜だらけだよ?」
「ほんとだ……」
左下半分が蜂蜜で濡れて甘く光っている。
無色の髪に蜂蜜が染みて、そこだけ琥珀色に色付いていた。
『シャールームがありますが……使いますか?』
「使わせて貰います……このままじゃカブト虫寄って来そうだし。」
ワイシャツを受け取って、給湯室の隣のドアに向かって行った。
『タオルは用意しておきますので。』
「……ありがとうございます。」
「悠紀仁!!」
「え、何?」
「お風呂場着いてから服脱ぎなさい。」
振り向くと、相原君がボタンを外し始めていたワイシャツを引っつかみ、凄い勢いで前を閉じている所だった。
「なんで?」
「なんでも!」
納得がいかない、と言った顔をしてまた歩き出した。
……自覚をされていないでああ言う事をなさるから、困る。
「……ユウッ……」
今まで黙っていた獅子緒が、いきなり口を開いた。
「ご、めんなさ……」
「……風呂出て来てからな。いっぺぇー叱ったるから」
下を向いたまま、ぽつりと
こちらを見ずにそれだけ言って、後ろ手に扉を閉める。
「……悠紀仁甘すぎ……」
『私もそう思います……』
安心してたがが外れたのか、ぼろぼろ涙を零しながら放心状態で扉を見つめる圭介。
「……ごめんなさい……」
震える声で、小さく呟きながら。
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