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極楽蝶華
2
 

『…久遠先輩のは…?』


一人だけなんかガツガツ飲んでて少し気が引けますが。


「あぁ。僕のはね、さっき俊に掛けちゃったから。」


……

…………

あー確かにティーカップ空ですね。
てゆーか先輩いつのまにかキャラ戻ってますね。

そしてお盆の上に当然の如く琉崎の分のグラスは乗っていなかった。



少し汗をかき始めたグラスを御盆の上に戻す。空になったその中で少し茶色に染まった氷がからんと物淋しげな音を立てて揺れた。


『久遠先輩、どうもありがとうございました。
アイスコーヒーおいしかったです。』

間違いなくそこらで売ってるような味じゃなかったのを確信して、ここに置いてある装飾品なども含めて物価の違いに思いを馳せた。
この様子じゃ350円の定食なんて望めないな。



と、目の前の綺麗な顔が少し眉根をひそめた。

「…その【久遠先輩】って言うの、やめない?」

『はぃ?』

「名前で読んでよ。」


『…久遠さん、ですか?』

「下の名前で。」


『……奈緒先輩。』

「先輩抜いて。」


何言ってんだこの御人わ。

『…最大限の譲歩です。
初対面に近い目上の相手を呼び捨てに出来ません。』

不良の世界は上下関係が厳しい。もう体にしみついた慣習みたいなもんだね。
相手の方が立場も年も上なのに呼び捨てなんて考えられない。

「じゃぁそれで良いや。」

奈緒先輩が少しつまんなそうに言った。
あれ、なんで俺が譲歩出されてる立場になってるんだろう。


「その代わり、キスさせて。」


……どんな代わり?


『キス…じゃなくて、挨拶のちゅーぐらいなら、普通にいいデスけど……』


「挨拶?」



『ほっぺた。』


「……いいの?」



え?しない?普通に。



少し面食らった様な顔をしていたら、いきなり顔が近づいて来た。


―チュッ―


頬骨の先辺りに、触れるだけのキス。


少し上目で顔を覗き込んだら、眼鏡を外されて今度は顔中に口付けの雨が降る。


鼻、瞼、おでこ。


唇だけ避ける様に。



最後に首筋に口付けをされて顔が離れて行った。



「……嫌じゃ無い?」



首を傾げて質問の意味を考えていると、ニッコリ笑った先輩が眼鏡を俺にかけさせた。


「次は、ここね?」


俺の唇に人差し指を充てる奈緒先輩。


それを自分の口に持って行って銜えている。



……何がしたい。

やめて。しないよ、俺。

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あきゅろす。
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