極楽蝶華
校医
……綺麗だ……
濡れて束になった髪は顔に貼りつき、色素の薄い銀糸は下の桜色を透かしていた。
唇や、目の回り、耳、鎖骨が紅く色付いて――
まるで、人の手で作る事の出来ない芸術品を前にしているようだ。
長い睫毛で縁取られた大きな目……淡灰色の瞳が、今は瞼に隠されているのが残念で……堪らない。
銀色に見惚れていると、ドアガードを挟んだままだったらしい玄関の扉が開いて、誰かが入って来た。
「……っ高裏先輩!連れてきました!……あれ、先輩?」
『あ、あぁ……こっちだ。入ってきてくれないか。』
他に人が入ってきてくれたので、――現実に引き戻されてきた。
安堵と物足りなさが胃の中を撫でて降りていく……
□■□■□■□■□■□■
目の前にいる白衣を着たスカした男がにやにやしながら言う。
のをあまり働かない頭でじんわりと聞いていた。
「……あー、これは酷い。噛みちぎられかけて、もう筋一本でやっと繋がってる様な状態だ。
神経や太い血管が走ってる辺りまで深くはないけど……筋繊維がえぐり取られてるから、治るまで結構かかりそうだなぁ……
……切り離さないと、腐ったり痛んだりするからちょっと我慢しろよ。」
……そんな生々しい実況中継いりません。
聞いただけで背中がこそばいゎ。
それに腐るとか痛むとか……俺は魚か?
「1、2の3で肉切り離すから。」
『……はい。』
「……1、2の」
―ブチッ―
ぎぃやぁぁぁぁぁぁああ!!
今テメェ「2」のところでブチってやったよな?
やったよな?
「3」でやるっつわなかったか?
思わず涙が滲む。
でも泣いて堪るか。
細く息を吸ったり吐いたりして無理やり引っ込めた。
俺が不平不満だーらだらの目で睨み付けてると白衣を着た馬鹿がピンセットにつまんだ肉片をひらひらさせながら微笑む。
「こうしたほうが力が抜けて良いんだよ。」
聞いたこともねぇーよそんな話。
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