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極楽蝶華



『……しかし、――相原、だったか?――』


「あ、はい。」


銀髪の少年に視線を落としていた顔が上がる。
柔らかな巻き毛がふうわりと揺れて、心配の色を隠せない瞳が覗いた。


ああ、どこかで見たことがあると思えば……副会長選抜の方で上位にいた……


と、忘れかけていた(否、忘れようとしていた嫌な)記憶を呼び覚ます。


ステージの上、大音量の歓声にほとほとうんざりして……同じく、うんざりした顔をした友人と一言二言交わしながら見た、ステージの向かいの久藤副会長の横に居た、こちらも不愉快そうな顔をしていた1年生の事を思い出した。




『この子、どうしてこんな……びしょ濡れ、血塗れで倒れていたんだ……何か知っているか?』


ソファにぐったりと持たれ掛かっている人物の銀髪をタオルで拭きながら聞く。

「……それは、僕にもわかりません……
 ただ、階段を登ってきて、……そこで、見つけたんです。絡まれてるのを。」


『……そうか……。とにかく、熱が凄い高い……それに肩口の傷も酷い、な。

 ……悪いが、下から校医を呼んできてくれないか。とりあえずコイツを拭いておくから。』


「――はいっ、わかりました。急いで行ってきます」

部屋から出ていく相原の背中を見て、

内心、遅くなってくれる事を少し期待してしまった……

 ――やめろ、自分。――


呼びに行かせたのに他意は無い。
電話を使わなかったのは本日担当の医師の癖を踏まえてのことだ。
……そう、あの人は……その、自分の都合で電話を取らない事があるから。
直接呼びに行った村上が最中の現場に遭遇したと言っていたからただの噂ではない事は確かだ。


友人がいつもの無表情に微かに怒りと軽蔑の念を込めて忠告を含めた報告をして来たのを思い出した。




目の前の綺麗な銀色に視線を戻す。


濡れた服は脱がさなきゃだが、……いくらなんでも……

同性とは言え、自分が――ほんの少しだが――欲情、して……

……いや、違う。欲情……なんて、していないッ
断じてッ!!



と、とりあえず……そもそも、本人の了承すら得ず意識が無い人間の服を脱がす……のは、駄目だろう。

ただの風邪、……呼吸は安定してる、脈も正常、どうやら何らかのショックや異常で意識が無い訳ではない様子だし。



高い熱に冒されているこの子には少し酷だが、起きて、自分で着替えてもらおう。

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あきゅろす。
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