my dear
「土方くんにね、彼女が出来たんだって」
私は目の前にいる幼馴染の総悟に、涙を堪えながらそう言った。
「先週から付き合い始めたみたい。告白したのは土方くん。両想いだったんだって」
必死に作り笑いを浮かべたけれど、空気が抜けてく風船みたいにグシャリと壊れて割れてしまう。
「ほんと、私、馬鹿みたい」
土方くんに好きな人がいるのは分かっていた。でも、私はあえて"知らないふり"をした。
見なければ事実が無くなるわけでも何でもないのに。
二人の関係が好転するわけでも何でもないのに。
私はただ、
土方くんに近づきたかった
「見事に失恋しちゃった」
明るく振舞おうとしてわざと弾みをつけて発した言葉も、涙の跡に落ちては消える。
「なんかごめんね。総悟には色々協力してもらったのにさ」
総悟には何度も相談にのってもらっていた。土方くんと仲が良かったっていうのもあるし、幼馴染の好というのもある。
私が不安になるたびに励ましてくれていた、総悟。
私が臆病になるたびに背中を押してくれた、総悟。
「ありがとね」
「……」
先程から総悟は俯いたまま、何も言わない。
失恋した私にかける言葉が見つからず戸惑っているのかと思い、そんなモノ必要ないよと言おうとしたその時、おもむろに総悟の腕が私の方へ伸びた。
私は何の抵抗もすることなく、その腕の為すがままに、総悟の身体に倒れこむ。抱き寄せられた肌が熱い。人肌のぬくもりが、こんなにも暖かくて優しいものだったかと思う程、身体が溶けてしまいそうだった。
「俺じゃ、駄目かィ?」
「……え?」
耳元で囁かれた言葉に、ドクンと心臓が大きく答える。
「俺、本当はずっと、お前ェの事が好きだった。だから、土方の相談とか受けるの正直ツラかったけど、お前ェがそれで幸せになれるんだったらって思って、言うのをずっと我慢してたんでィ」
「……」
「でも、お前ェは今、泣いてる。こんなの俺は望んででねェ。俺はお前ェに笑って欲しかったんでィ!なのに、それなのに」
「……」
「俺はお前ェが好きだ。もう、我慢なんてしねェ。俺はお前を……!」
「総悟、」
私は、続く総悟の言葉を大きな声で遮った。
ビックリしたのか、総悟は目をパチクリとさせている。
「ありがとう。私も総悟のコト大好き。いっぱい感謝もしてるし、いつまでも傍にいて欲しいって思ってる。
でも、私の一番は、やっぱり土方くんだから。だから、今は土方くん以外のコトは考えられないの」
「……アイツには彼女がいるってェのに、好きでい続けるってことかィ?」
「そう、ね。彼女が出来たからって、私の土方くんへの想いが変わるわけじゃないし。特に今は、彼だけを想っていたいの」
「……」
「ごめん、ね」
胸が苦しかった。
私は大切な人を傷つけている。
総悟は納得できないというように首を振り、私を真っ直ぐに見据えて言った。
「女は"誰かを愛する"より、"誰かに愛される"方が幸せだって、思うけどねィ」
「……」
「俺なら、お前ェを幸せにしてやる自信がある。お前ェだけを愛し続ける自信がある」
「……」
「もう、泣かなくていいんでさァ。あの野郎のことなんて忘れて、お前ェは俺に、愛されればいい」
「そう、ご」
「俺を選びなせェ」
苦しかった
悲しかった
こんなにも、こんなにも
総悟は私を愛してくれている。
だけど、
だけど――…
「ありがとう、総悟。確かに、愛するより愛される方が女の子にとっては良いのかもしれない。叶わないと分かっている恋に思いを馳せても、苦しくて空しいだけだもの」
「そうでィ。わざわざ、自分を傷つけるこたァねェだろィ?」
「でも!でもね、私、
"人を愛せる"って、すごく幸せなコトだと思うんだ」
たとえ想いが報われなくても
けして、この恋は無駄じゃなかったのだと――…
「あァ。そういやァ、忘れてた」
「え?」
総悟はフッと小さく頬で笑ってみせた。
「俺は、お前ェのそういう真っ直ぐなトコが好きなんでィ」
だからお前ェがそう言うのは仕方ねェか、なんて言って、総悟は屈託なく笑っている。私もその笑顔につられて、声をあげて笑ってしまった。
*
誰かを好きになることは
本当にむつかしいことだけど
でも
誰かを好きになれるのは
本当にしあわせなことだから
だからわたしは
ずっとずっと
貴方を好きでいたい
My Dear*°
愛し、君へ
「応援なんてしてやらねェからな」
「うん、分かってる」
「泣きついてきても知らねェからな」
「うん、大丈夫」
「それでも俺は、お前ェのことが好きだからな」
「うん、ありがとう」
20081122
*applejam*
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