たのもおおおぉぉお!!という地をも揺るがす声が響いたのは太陽が天辺に昇りそうなあたりだった。内側で休憩をしていた門番がその声の衝撃にしりもちをついて、「またやってきたぞ」と溜息交じりで片方が領主である政宗へと報告しに出かける。 その声の主が誰なのかというと、この政宗の住まう城に勤めるものはこの"声"だけで嫌でもわかってしまい。それほどまでに交流がある人物でもあった。ただ、交流があり仲がよいからわかる、という訳ではなくてその"迷惑さ"ゆえのことだ。 なにせ、彼がやってくれば城の一部が破壊されてしまうからだ。 何が嫌かといえば、それを直すのは、片付けるのは城の兵、武将達だからだ。 今度は、内側の奥から、空を揺らすかのような声。もちろんその声も知っていていわずともこの城の主であり、その声を聞いた家臣達は巻き添えを食らわないように端へとよって、そそくさと何処かへ逃げる。 「さぁぁぁあぁなあああぁだああぁぁ幸村あああああ!」 その声に呼応するように門の向こう、外側から「伊達ええええまさむうううねええええ!!」と揺るがし、彼等を隔てる門が今、――――ふっとんだ。 吹っ飛んだ。否、ぶっ壊れた。 木片が飛び散り、逃げ遅れた門番兵にいくつか当たる。痛ええ!と叫び逃げる兵。しかしそんな部下を気に留めないほど政宗は目の前の存在に目を向けていて、その存在も同じく目を向けていた。 「政宗殿!!お手合わせお願い申し上げる!!!」 「上等だぁ!前よりは強くなったんだろうなぁ!?」 「無論!!」 「なら、勝負だ真田幸村ぁああ!!」 「勿論でござる!!うおおおおぉおおお!!」 「おぉおおおぉぉぉおお!!!」 それは、春後半のことだった。 一方、自室でその声を聞いたつかさは、その覇気のある大声に驚いて怯え押入れの中に隠れていた。 「・・・・・・誰、だろ」 今でもまだ自室にいることは多いが、ひとりで外に出て、庭でひとり遊ぶことも増えてきていた。成実とも、前のように明るく楽しい、という関係ではなくなったがそれでもボソボソと会話をしたり互いに控えめに笑ったりとする時もある。それでも双方とも罪の意識をもっているのかそれ以上の穴は埋まらなかった。 話を戻して、政宗の声が加わり騒然としてしてきた、とはいっても声は二人だけだが、開けてもそこからは自室しか見えないというのに外を覗くように襖をそろーと開ける。 ・・・目の前に鼻頭と両頬に緑のペイントを付けた知らない人がしゃがんでこっちを見ていた。 「――――っ!!!」 ばたん! すぐさま襖を閉めた。 なんかいた。 内心でそう叫びながら驚愕と恐怖で今にも千切れてしまいそうな心臓をおさえる。 あれは誰だ? あの人、誰だ? え?え? この城の忍の人は皆、黒装束を身に纏っているからここの忍ではない。けれど見た目は迷彩柄だったが確かに忍のような衣装で、それで。違う、それよりもだ。 ここにつかさが、自分がいるということが知れている今、その誰かは害を与えるものなのか違うのかを知らなければならない。 見知らぬ忍に対しては足を裂かれたこともあり警戒しかできない。このままここにいればまたあのクナイで、刺されるかもしれない。裂かれるかも。もしかしたら殺されてしまうかもしれない。そこまで思考が至るとゾワリと鳥肌がたった。 きっともう殺されてしまう。そう思うつかさだったが、声をかけられる様子も刃物が襖越しにやってくる様子も無い。それでも襖の向こうに確かに気配があることだけはわかり出るに出られない、声をだすに出せないままで縮こまっていた。 [*前へ] |