「弟が生まれて母上は更に俺を嫌うようになった。継承争いにまで発展して俺を毒で殺そうとした。まさかいくら嫌われていようと実の母に毒を盛られるとは思ってもなかったな」 「・・・いた、かった?」 「ああ・・・痛かったさ」 毒に犯される体も、母に殺されかける、という心も。 それでも俺がこうしてここにいるのは父のように母のように支え続けた小十郎。そしてそれに続き慕い付き添ってきてくれた人たち。 痛かった。 嬉しかった。 悲しかった。 頑張ろうと思えた。 母上に忌み嫌われなければこうして小十郎達との深い絆を手に入れられる事はなかった。 こうしてつかさに会い、戦乱の世にあるまじき気持ちさえを分け与えてくれた。 つかさの柔らかい髪をくしゃりと撫でる。 喜怒哀楽を見せていなかった顔が頬を赤くしながら嬉しそうにされど泣きそうになっていく。 「だがその痛みがなきゃ、小十郎や成実、綱元や俺を慕う部下達に、そんでつかさにも会えなかった。・・・会えなかったらこうして、戦乱の世だっていうのに気を抜いてのんびりとここで話すこともなかっただろうしな」 つかさだってその"痛み"がなければこうして俺と会うことはなかったかもしれない。 俺もつかさに会うことがなかったかもしれない。 だから。 つかさと一緒にいるこの安らぎを知っているからこそ会えて良かったと思っている。 なでられた箇所を両手でさわさわと触るつかさはその細い足をブラブラと落ち着かないように振り、俯きながらボソリと呟いてきた。 ―――その姿に"つかさ"の面影が少しあって記憶を取り戻したとしても同じつかさなのだと安心できた。 「・・・・・・俺も・・・、俺も会えて良かった・・・、とおも・・・う」 つかさ自身、その暗く痛い思いに記憶に身を震わせている。 どんなにplus思考を考えたってその暗闇が上から覆い隠し日の元に出させまいとしてくる。何度も、何度も。 だから途中で挫折して暗闇が楽でいいって思う。だからplus思考を止めてしまう。そうして人は心を病んでいく。 つかさにはそうなってほしくない。 途中で全部を諦めて欲しくはない。 俺のように、たとえ暗くても誰かがその日へと伸ばす手を掴んでくれるんだってことを知ってほしい。 いや、認めて欲しい。 「俺も、会えて、良かった」 「・・・ああ。俺もだ。俺もつかさに会えて良かった」 一度は国主としてお前を見捨てる覚悟でいたけどな。 それでもあの時のつかさを見たら一気に吹っ飛んじまった。 ・・・本当だぞ。lieじゃあない。 「――――つかさ」 庭の脇から現れたのは紙包みを持った綱元。 「よお、綱元」 「・・・、」 綱元も、珍しいことにかなり心配をしていて、つかさの部屋に行く度に好物だといっていた団子を買っては持ってきていた。 今までは受け取るのもためらい最後には手をつけずに終わっていたつかさ。 「政宗様もひとついかがですか?」 「Thank you.つかさ、お前も食べるだろ?」 紙を開いて差し出された団子を一つ手にとりつかさへと見せる。情けなく俯いたままのつかさも眼前へと団子をフラフラ見せ付けてやれば小さく肩を震わせて「食べる」と一言くれた。 顔は見せてくれないが、笑ってくれたようだ。 「良き事ですな。・・・さて私はそろそろ席を、」 「綱元さん・・・」 「?」 俺に気を使おうとしたのか団子の包みをつかさの横へと置くとそのまま去ろうとする綱元。そんな綱元へと声をかけたのは、つかさだった。 ちょろりと顔を少し上げて目線が見えるほどの高さまであげると視線を横にずらし戸惑いながら俺から貰った団子を綱元に向けた。 「・・・・・・綱元さん、も・・・一緒に」 「・・・良いのか?」 うん。 それを言葉にはできなかったが、深く頷いたのを見て俺を見る。 その目は輝きに溢れていて俺も同じ目を今、しているんだろうなと笑った。 [*前へ][次へ#] |