あれから数日が過ぎた。 山賊は警備に当たっていた兵に見つかり小さな交戦となった。 それぞれが確かに忍の技術を身につけていたが伊達軍の兵は忍程度であっけなく負ける輩ではなく数の多さから山賊を討伐することに成功した。 ―――その中には若頭である紅(こう)の姿は無かった。 牢獄に入れた山賊を拷問し聞き出すも、己等ははぐれ忍であるという事と、紅に雇われ成功した暁には膨大な金をだそう、という契約の元動いていただけであった。 そしてその紅の事は、つかさと双子であることしかはっきりとわかっていない。 完全に詰まり、で終わったのだ。 今回の事件の事に関しての書に目を通して間違いがないことを確認し閉じた。 「・・・・・・さて、つかさんとこ行くか」 事件は無事に解決した。 だが、残された問題はいくつもあり一つは紅という存在。 もう一つは、つかさのことだ。 つかさは記憶を取り戻した。 それは良かったことなのかはわからないが、つかさは前のように笑わなくなった。 いつもは成実と庭ではしゃいでいたのに部屋の中に篭りっきりでたまに部屋から出てきたと思ったら"誰もいない所"にむかって何かを喚き叫ぶ。 つかさの事をよく知らない、嫌悪するやつらは"気がおかしくなったのだ"とささやきあう。 見知ったつかさがいない。 だが確かにつかさであって、それを否定することはできない。しちゃいけねえ。 つかさの部屋の前までいくと成実と出くわす。 胸元に覗く包帯。その内側の怪我はつかさにつけられたものだ。 今となってはつかさが望んで怪我をさせたのではないとわかっている。 「よぉ、成実」 「梵、」 いつもの成実らしくない声色で俺を見た。 らしくない原因もわかってる。 「・・・つかさは?」 「中にいる」 あの日からつかさは完全に拒絶はしないものの、成実には口を開かない。いや成実だけじゃねえ、小十郎や綱元さえとも話さない。YESかNOで答える程度だ。 喧しいのが特徴の成実は落ち込みを見せながら部屋から離れていく。 ソレを見届けると、障子越しに呼んだ。 「つかさ、入るぞ」 答は返ってこない。 仕方なく障子を開けると誰も寝ていない布団が目に入る。 見渡してもつかさはいない。それも今や当たり前だ。 部屋に入り、布団の脇を通る。その奥にある閉じられた襖。 手をかけて開けると本来布団をしまうところの空間に座るつかさの姿。 薄闇の中からつかさの顔が俺を見上げた。 「つかさ、飯は食べたのか」 「・・・・・・うん」 「さっき成実が来てたぞ」 「・・・知ってる」 「いい加減出て来い」 「・・・」 しゃがみ込んで視線を合わせると膝を折り座るつかさの手に力が篭る。 「・・・出なきゃ、だめなの?」 「ああ」 こんなとこにいつまでもいればそれだけで気もどんどん暗くなり病にだってなる。 できる限り外にださねえと、つかさは本当に笑うことを忘れちまう。 のそのそと襖からでてきたつかさは俺の着物の端を掴み部屋の中を見渡す。"何か"がいないのを確認しているらしく、いないとわかると裾から手を離す。 「政宗、は・・・"政宗さま"は、」 「NO・・・お前の話し方でいい。無理に、似せようとするな」 きちんと皆知ってるんだ。 おまえが笑わなくてもつかさって事、ちゃんと知ってる。 お前だってわかっているはずだ。ただ、認めるのがまだ怖いだけなんだ。自分が必要だと、生きていいと自身を認めるのが怖いのは不安なのは知っている。俺もどうだったからな。 「・・・ま、さむねはどうだった?」 「何がだ?」 「親。・・・どんな、親・・・だった?」 障子の外から覗く晴れた空を隻眼で見上げた。つかさの手を握り縁側へと出て座る。つかさは戸惑いながらも腰を下ろして同じように座った。 「俺の親はな、父上も母上も良い人だった。だがな、ある時俺が病にかかってな。目が飛び出るっていう恐ろしい病だ。その目を見た母上は、化物となった子など自分の子供じゃねえ・・・って忌み嫌うようになった。父上は心配してくれたけどな、戦に忙しくてめったに会えなかった」 鮮明に思い出そうとすれば胸が強く痛く締め付けられる。息を吸うのも苦痛で吸うたびに締め付けてくるこの痛みが嫌で嫌で仕方ない。 だからはっきりとは思い出さない。 [*前へ][次へ#] |