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狂い狂わせ狂われた
龍を釣る話10



部下に案内を頼んで、たどり着いた先には、つかさが成実へと刀を振り下ろした後の光景だった。

山賊らしき男が死んでいる。

その奥で、肩から胸板まで斬られた成実が血に塗れ倒れていて、つかさがその前に突っ立ていた。




俺は、絶望した。




つかさが成実を傷つけた事に。

つかさが仲間を傷つけた事に。

つかさが、俺を裏切った事に―――――






「つかさ、てめぇえええええ!!!」




「政宗様!」

腰の刀を抜き、つかさへと向かい刃を向ける。

俺が、いなきゃ、助けてやらなきゃ、死んでたくせに。

恩を仇で返すのか、つかさ。

俺の部下を、仲間を、従兄弟を傷つけるのか。


完全につかさを捉えた刃、あとはこの距離をつめるだけ。

この短い距離、つかさはゆっくりと振り返った。

後はもう刀を振ればいいだけ、力のこもった手が動く。

狙うのは人間の急所の首。





つかさは、――――――"笑っていた"。


沸騰していた頭が急激に冷えていく・・・、が。

もうこの手は止められない―――!






「政宗様!冷静になるのです!!」



「――――っ!」


ガキンと金属同士がぶつかり合う音が響く。

つかさと俺の短い間に小十郎は割り込んで小刀で刃を受け止めていた。

憤怒していた俺の刀は重く、小十郎でさえ受け止めるのにはそれなりの力が必要。現にも歯を食いしばり両手で小刀を支えていた。

しばらくの静寂に、俺は手の力を抜いて無言で刀を鞘へとしまう。

「・・・・・・なんで笑った」

つかさが笑ったのは小十郎にも見えていたのか、横にずれて無表情で見上げるつかさを見つめる。

いつも笑っているのがつかさだった。だが、目の前のつかさは笑ってもいない。doll(人形)みてえだな。

・・・本当のつかさは、お前なのか?

「答えろ、どうして笑った」

「・・・・・・・・・殺してくれると思ったから」

つかさの濁んだ目が揺らぐ。

その目がとても暗く黒く、光が見えないのに無意識に俺自身だ、と思ってしまう。

いや、俺自身だ。

こいつは、目の前のこいつは、昔の俺なんだ。


「殺してくれると思ったから。父さんも母さんも、俺のこと嫌いなのに、愛してくれないのに、殴るくせに蹴るくせに叩くくせに!・・・殺してくれないんだ。毎日、憎いって早く死ねって・・・言うのに殺してくれないんだ。どうして?嫌いなら憎いなら殺せばいいじゃないか。どうして生かすの?どうして俺を殺さないの?なんで?俺を殺さないから、だから俺は殺しちゃった。なのに、"まだ、いるんだ"。俺の後をついてくる!俺を、嗤うんだ!俺を、俺を!!」


次々と言葉を吐き出すつかさ。俺の知ってるつかさとは全然違う、むしろ逆で、これが本当のつかさだと思うと哀れでならなかった。

俺と同じ。

だが決定的に違うもの。


"愛してくれる"人が誰一人といなかった。助けてくれる人も、守ってくれる人もいなかった。数々の否定の拒絶の言葉を吐かれ、手をあげられ、逃げることもできない。

人間として、生物として、"認めてもらえなかった"存在。

それが、目の前の本来の、つかさだった。

「・・・もう、嫌だよ。もう死にたいよ。殺してよ。生きてても意味ないよ。愛してくれない。俺を認めてくれない。そんなのないよ。俺、何のために生まれてきたのかわかんないよ」

「つかさ」


俯き涙を零すつかさの名を呼ぶ。一度呼んでも返事はしてくれなかった。

二回目は強く名前を呼んで顔を上げろ、といった。長い間をつくってやっとつかさは顔を上げた。


絶望に沈む泣き顔を平手で叩く。

そして抱きしめた。




「馬鹿か。お前が死んだら俺たちはどうなる。つかさは信じられねえかもしれねえが、皆お前の事が大好きなんだぞ。小十郎も成実も綱吉も伊達兵も皆、お前の事が好きなんだ。だからいなくなったお前の為に、城下町を城周辺を必死になって探してるんだ」

「・・・・・・」

「勿論、俺もお前のことは好きだ。大好きだ。愚痴なんていくらでも聞いてやる、楽しいときも悲しいときも一緒にいてやる・・・だから。だから、死にたいだなんて言うんじゃねえ・・・!」

なあ、つかさ。

お前、きっと記憶を思い出して本来の自分に戻って辛かったんだろう?痛かったんだろう?

それは忘れてたから痛いんじゃないんだ。苦しいわけじゃないんだ。

俺たちが、つかさと一緒にいたから"愛されてた"から、だから本来の自分の記憶を思い出して、本来の自分に戻って、痛かったんだ。

苦しくて痛くて悲しくて怖くて、不安だったんだ。

記憶を思い出して、俺たちを信用することができなくて、傷つけるのが怖くて嫌だったんだ。



「・・・・・・・・・帰るぞつかさ。俺たちの家に、な」


抱きしめられながら嗚咽を零すつかさの頭を撫でる。

俺の首に手を回して精一杯に抱きしめ返して泣くつかさは、かすれた声で何度も何度も謝り続けていた。

謝るのは俺なのにな。



つかさ・・・








お か え り 。




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