「つかさ!目を覚ませ!」 何処が傷つけられるのかがわからない。 ただ、つかさ自身、あの男のようにすぐには殺す気がないのか、浅く皮膚が裂ける程度だった。その間に、つかさの動きを考察する。 その気になれば俺を殺すことができる。 それをしないということは、つかさ自身あの力の使い方をいまいちわかっていないのか、まだ俺を殺すということに抵抗があるのか。 できれば、後者であってほしい・・・。 「つかさ!」 「――煩い!」 「ぐ、」 着物と一緒に肩が裂けた。 だがやはり傷は浅く、血が仄かに滲む程度のもの。 目の前では震える手で俺を指差すつかさの姿。 さっきから指を差すたびに皮膚が裂ける。 もしかしたら弓矢の矢先のように、火縄銃のように、指差すことによって目標を定めているのかもしれない。 だとしたら――――避けられるかもしれない。 刀を構えてつかさへと向かう。 俺が向かってきた事に焦ったつかさは俺へと指を差した。 手はやはり震えたままで最初こそ無表情だった顔も眉をハの字にしてそれは怯えているような、哀しんでいるようにみえた。 「こっちに・・・こっちに来ないで、来るなぁああ!」 「――――っ!」 つかさの事だ。 感情任せでうっているに違いない。 俺が近寄る事を拒絶する。 その叫びを聞いた瞬間に横にずれる。後ろで土が裂け抉れる音が微かにきこえて考えていたことは確かだとわかった。 あと数歩という距離まで近づくと、つかさは恐怖に身を固くして俺が背後に回り腕を押さえ拘束するまでじっとしていた。 掴んだ腕は酷く冷たく酷く震えている。 首元に刀の刃を当てているんだ、当たり前だ。 独りでずっと怖い思いをしていたんだ。 足を斬られて血をみて死んでしまうかも、と思ったんだ。 怖いのは当たり前なんだ。 刃で無理やり拘束している俺はつかさに「大丈夫だ」なんていう権利はもうないのかもしれない。 ・・・それでも言うよ。 「つかさ、大丈夫・・・大丈夫だから」 「嘘つき・・・嘘付き嘘付き嘘付き嘘付き・・・っうそつき」 「・・・・・・・・・、大丈夫」 梵が来るまででもいい。 小十郎でもいい。 どちらかが来るまでに俺はつかさを抑えられていればいいと思う。 きっと梵なら、小十郎なら何とかなると思うんだ。 俺だってつかさといた時間長かったけれどさ。 刀を、刃を向けちゃったから、怖がらせてしまったから落ち着かせるのは難しいと思うんだ。 刃を首に当ててるにも関わらず、つかさは抜け出そうと嘘、嘘!と繰り返しながら暴れだす。異様な力に俺も抑えるのが精一杯で、刃が掠り首に一筋はいってしまい息を呑む。 このままじゃあ、つかさの首が危ない。 そう判断した俺は刀を捨ててつかさ首へと腕を巻きつけた。 それでも止まらず暴れ続ける。 「つかさっ・・・!」 「―――――――来るな」 「!?・・・つかさ?」 つかさが更に暴れる。 それと同時に、つかさの吐く言葉が変わっていた。 「来るな、来るな来るな!来ないでよ、来ないで!!嫌だ!」 何かに吐き捨てる言葉は、しかし誰もいない場所へと向けられていて。 この暴れようもその視えない"何か"から逃げようとしているんじゃないか? つかさは何を視てる。 つかさは何が見えてる。 「つかさ!しっかりしろ!」 「―――来ないで、こっちに来ないで、こな・・・ひ、ごめ、さい。ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!"殺して"ごめんなさい!お願いだから嗤わないで、嗤わないでよお!!!俺は、俺は―――!!!」 「つかさ!―――っっ!」 つかさの細い腕に対してありえない腕力が俺をとうとう突き飛ばした。相当力が強く、飛ばされた俺は地面へと叩きつけられた。 背中を思いっきりぶつけてしまいむせながらも見上げると、つかさが俺の刀を手に持って振りかざしていた。 日の光で反射する刃が眩しく感じられて、左肩に冷たい熱が荒く走った。 熱い液体、血が頬に着物に付着し地面へと零れていくのがわかる。 刀を振りかざしたつかさはそんな俺を時が止まったかのように呆然と見て、ぎこちない動きで両手で顔を塞いで喘ぎをもらす。 「あ・・・あ、あ・・・・ああ、」 「――――っ・・・つかさ」 「つかさ!――――!成実!!!」 早く来て欲しかった梵の声が聞こえる。 だけれども今の状態だととても時機が悪い。 それでも痛みで動けない俺はただ、苦しみ喘ぐつかさを見上げるしかなくて結局助けられなかったなって。 梵が何か大声で怒鳴ってる中、俺の目の前は黒くなって視えなくなっていった―――― [*前へ][次へ#] |