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狂い狂わせ狂われた
龍を釣る話5




忍から一つの伝令が入った。

一人の若い男が"取引"を持ちかけている、と。

しかもその男は忍紛いの山賊の頭らしい。

「――――・・・内容は、」

「、それが・・・・・・"貴様の命と引き換えにつかさを返そう"というもので、」

「What?」

目の前に放り出された違和感。


何故――――、何故、つかさを取引にした。

城主である俺と、そこらへんの子供と同じつかさ。何をどうしても釣り合いが取れない。たとえ相手が、つかさと城主とは仲が好いとわかっていても、結局は城主と子供だ。その取り引き自体、応じるわけが無い。

さすがの俺だとしても"奥州"という地を治めているからして・・・応じることはできない。応じることはできないんだ―――。





長い沈黙。

その沈黙を破ったのは傍に座っていた小十郎で、決断を求める視線を向けて名を呼ぶ声。

「・・・ああ、わかってる。そいつの所に案内しろ」

「!政宗様、取り引きに応じるつもりですか!!」

「NO.取り引きには応じねえ。だが、そいつに一度会ってみてぇ」

どうしてどのような経緯でつかさを攫ったのか。城主と一人の子供の命。どう考えても応じてくれない取り引きをなぜ持ちかけてきたのか。奥州に、何の目的でやってきたのか。

簡単に話すわけはないが、それらを聞いておかないと気がすまない。

「で、そいつは何処にいるんだ?」

「城下町の外側の道に」

「OK.小十郎行くぞ」

「御意にございます」

つかさの笑顔が浮かぶ。その笑うつかさにすまないと心内で呟いて城下町の外へと馬で駆ける。




お前が嫌いなわけじゃない。


お前が邪魔なわけじゃない。


だが、国を治めるこの命を、小さな命ひとつの為に捧げるわけにはいかないんだ。

すまない。


許せ。
許してくれ―――――

























「――お待ちしてましたよ、伊達政宗」

忍が若い男とは言っていたがここまで若いとは思わなかった。

山賊という割には汚れは少なく清潔感がある。

真田幸村と同じように後ろで長い髪を結わいており前髪もそれなりに長い。

服装こそ山賊らしいが、目の前へ俺を射抜く瞳は強く、只者ではないと理解できる。

「・・・テメェがBossか」

「はい、若頭をしている、紅と申します」

「・・・・・・南蛮語を理解できるのか」

「簡単なものでしたら。それより城主自らが来ていただけるとは思っていませんでした」

「・・・・・・」

言葉使いも丁寧。しかも"つかさ"に似た独特な雰囲気を持っておりその柔らかい雰囲気が俺の、警戒心を消そうとしてくる。消すな。こいつは敵だ。踏みとどまれ。こいつは、つかさとは違う。

「こちらに来ていただけたということは取り引きに応じてくれるということでしょうか?」

「・・・取り引きには応じない。国主のこの命はやれねぇ」

「・・・では何故こちらに?」

「何のつもりでこんな馬鹿げた取り引きをしたのか、聞きたくてな」

「―――ああ、そんなことでしたか」

にっこりと微笑する男。脳裏のつかさの笑み。そのふたつを重ねてしまう。

違う。こいつはつかさじゃない。わかりきっていることだ。わかりきっている。だというのにこの似通った雰囲気が、笑みが俺をどうにかさせようとしている。

「そうですね、ここには部下もいないことですし・・・その理由をお話しましょうか」

互いに一定の距離を保ったままの話。

相手を、紅という男を殺そうと思えばやれる。それほど隙があり、こちらと違って警戒心の一欠けらさえ持っていない。

ここでこいつを倒してしまえば、一件落着ができる。できるが、そうする気持ちよりも目の前の男が今にも口を開けて話そうとする"理由"に興味があった。いや、聞きたい。

「つかさは貴方の身にあまる存在です。本来なら否応なく貴方から引き離して"元の場所"に戻さなければならない。しかし、わたし個人、つかさには幸せになって欲しい。だからできれば元の場所には戻したくない。だからわたしは貴方に"つかさを想う気持ち"があるのであれば引き離さずに一時のしのぎだとしても置いておきたい。いわば、貴方を"試しました"」

また一つ笑みをニッコリと見せる。

その理由の深い意味はわからないが、つかさを攫いこの取り引きを持ち出したことはわかった。この男はつかさを"知っていて"、俺の身にあまる存在だから引き剥がしたい。

だが、引き剥がせば"元の場所"とやらに戻さねばならない。そこに戻せばつかさは"幸せになれない"。だから、つかさを大事にできるのならば俺にたくそう、と。

理由はわかった。
わかったが、つかさに対する謎と疑問が増えた。いや目の前の男の正体も同じように。

「・・・お前はつかさを知ってるのか?」

「はい。・・・気付きませんか?わたしとつかさ、これでも双子なんですよ?」

「ふ、双子!?」

その衝撃的言葉に、じっと黙って聞いていた小十郎でさえ俺と同じ言葉で叫んでいた。

俺達の反応が面白かったのか口を押さえて笑い始める男。だが、誰でも驚くであろう。確かに雰囲気も笑い方も似ている。双子だとわかってよくよく見ればなんとなく顔つきが似ていることも。

しかし、身長の高さ、見た目からして双子にはとうてい思えない。兄弟なら通用するが、双子となるとありえないというところまでいく。



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