「―――――っう」 金属の冷たさ、刃物の先の鋭さが更に恐怖を煽る。表面をなぞる刃先は力なくくすぐったさを残して下がっていき、途中でぐっと力が入った。ブチチ、と裂けた。 「ぃ!!」 「ああ、悪い。ゆっくりと他人をいたぶるのは久々だったものでな、加減ができない。しかし安心しろ、これぐらいじゃあ死にはしない」 「う、あ、あ!」 そのまま下がっていく刃は皮膚を裂いていき、一際皮の薄い足首の所までたどり着くと動きを止めた。冷たく裂けた場所は熱が沸き血が伝っていくのが嫌でもわかる。熱が脚を包み痛い。爪を立たせ土を抉ってその苦痛を耐える。 痛い 「紅はどうしてかお前を酷く丁寧に扱うが・・・まあ、俺は紅じゃない」 動きを止めていた刃物が、今度は裂かれた断面を逆戻りしていく。ズチュリとさらに肉を裂く音。内面を裂かれる痛みは大の大人でさえ叫び、気を失うほど。15歳といえど精神的にもおさないつかさに、耐えられるはずもない。 ―――――つかさは、土根を指先で抉り断末魔をあげた。 痛い。痛い痛い痛い。 例えようがないくらい痛い。 ああ。ああああ。熱湯をかけられたときのあの染みる痛みよりも。蹴られたとき殴られたときのあの鈍痛よりも。数々の暴言を吐かれた胸の痛みよりも。痛い。俺が痛い。俺が痛い。何をしても俺が痛い。痛いんだ。とりあえず痛いんだ。だって痛いんだ。 こんな痛み、その痛みを知らない奴に話したってわかりはしない。だってコレは俺に与えられた痛みで、俺だけしかわからなくて。だから他人に話したって。わかりはしない。理解しない。嗤うだけだ。嗤うだけなんだ。 目を傷つけられたわけじゃないのに視界が赤い。目の端がぎりぎりと強く締まって潰れてしまうんじゃないかってくらいギリギリしてて。いたい。それよりも足が。内面を更に裂かれる痛み。痛い。痛いんだ。 痛いんだ。 「―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」 「喧しいな」 「あ゛ぐっっ・・・!・・・・!!!!」 極限まで開いた口に押し込まれる布。布で音は最低限に抑えられて酸素も抑えられる。予想した痛みを超えた激痛は涙さえ抑える。どんなに痛みに耐え切れず暴れても上から押さえつけられていて満足にはいかない。 それでも襲ってくる激痛にきつく目を瞑る。瞼の裏も何故か真っ赤。真っ赤で、真っ赤で、真っ赤の真っ赤。血みたいな色で。気持ちが悪い。ああ。気持ちが悪い。 あの時もそうだ。 あの時も気持ちが悪かった。仕方なかったって思ってもどうにもならない。どうにもならないから"忘れてやった"。けどしつこいんだ。 あいつらが。 あいつらが―――― 「つかさ!!!」 政宗さまに似た声。だけどそれよりも少し柔らかい声でいつもちゃらちゃらへらへらする政宗さまの従兄弟の顔。目を瞑っているはずなのにシゲの姿ははっきりと見えていて、ああ目を開けていたんだと気付いた時にシゲの後ろにいた二人に意識を囚われてしまった。 あいつらが。しつこいんだ。しつこい。しつこいしつこいしつこい。 俺は悪くないのに。 決して"愛してくれなかった"二人が、ほら。 そこでケタケタケタケタゲラゲラゲラゲラ俺を嗤ってる。 ああ。 消えて。 俺を嗤う奴は、皆、しんじゃえばいいんだ。 「――――、嗤わないで」 眠って、また、―――――――― [*前へ][次へ#] |