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狂い狂わせ狂われた
龍を釣る話3



「・・・ど、どうしよ」

手足は縛られて動けないが、口は動く。誰か助けて!とでも呼べば良いじゃないかと思うけれどもこうまで静かだと叫ぶのが躊躇われる。違う。誰かに助けてもらうのを躊躇ってるんだ。"その誰かが助けてくれるとは思わないから""拒絶されるのが怖いから"

不意にそんな事を思ってしまった。俺は首を左右にぶんぶん振って脳を揺さぶり強制的にその思考をとめた。ちょっと眩暈がしてぼけっとしてしまったけれども、首を振ったおかげかさっきみたいな余計な事は浮かばない。

今、俺がしなきゃいけないことはここから逃げることだ。あの長髪の男の人たちから逃げ出すことだ。ほら、あの人俺が逃げないと思って手足を縛っただけだからきっとこの縄さえ切ることができれば簡単に逃げ出せる。

問題は・・・どうすれば縄を切ることができるかだけども。

「・・・・・・とりあえず、手から」

手首を縛る縄はきつく結ばれていて結び目を緩めようと歯ではさみ引っ張る。土臭い味がしたがそんな事を気にしている場合でもない。俺は思いっきり縄を引っ張る。ズリ、と微かに擦れる感触がした。

「ひへる!」(いける!)

あの長髪の男の人も随分と詰めが甘いのか、それとも俺の事を非力だと思っていたのか縄は確かに硬いが引っ張ればちょっとずつだが緩む。これを解いたときには歯がグラグラするんじゃないか?とか考えてしまったが歯の一つや二つ抜けたって構わない。

ここから逃げて、政宗さまのところに帰らなきゃいけないんだ。




―――――・・・どのくらい縄を引っ張っていただろうか。

歯茎から血が滲んでいて口の中は土と血の味だった。それでも結ばれていた縄はあともう少しというところまで来て、これが抜ければ縄が完全に緩みに緩んで手が解放される。

そして手首に掛かる圧力が消えた。

縄が緩んだのだ。俺は口を離して手首を抜く。

「―――やったー・・・」

ずっと引っ張っていたからか歯がじんじんとしている。それでも自由になった手をみるとさすが俺!とか思ってしまったりした。手首が赤くなっているがそれ以外の損傷もないし、ぶらぶらと軽く解した後、足首の縄も解放した手で難なく解いた。

自由になった足で立ち上がって戸に手をかける。正直、外側から何か挟んであけないようにしているんじゃないかと思ったけれどもそれはなくて、普通に開いた。まさかこんな簡単に外に逃げ出せるとは思ってなかった俺はついにやけてしまう。

これで晴れて自由の身。後は政宗さまのお城に戻れば―――・・・良い、んだけれども。

四方八方が森でどっちに進めば城なのかがさっぱりわからない。連れられてきたときは木の上をビュビュンと走るものだから怖くて目を瞑っていたし。とりあえず、どっちでも良いから歩いたほうが良いのだろうか。



「・・・とりあえず、・・・こっちにでも」


「何処に行くんだ」

「ひっ」

頭上から声がした。咄嗟に見上げると古小屋の屋根にあの人の仲間の一人が膝を曲げて両手を屋根につけてバランスをとって見下ろしていた。深く被る頭巾に口元を隠す布で顔がわからないけれども、見逃してくれる様子は一欠けらもない。



「お前は餌なんだ。餌はえさを入れる器にいなければならん。わたしは紅(こう)と違い甘い存在ではないぞ。苦痛を味わいたくないなら古小屋へ戻れ」

黒い刃物が男の手元で光を反射して、刃物が―――と思ったときには既に足元の地面に突き刺さっている。放たれた後に逃げようと身じろぎした俺は、その足元にある刃物を見て生唾を飲んだ。見えなかった。何も。投げる瞬間でさえ。

人間というのはこのように素早く動けるものなのか。手が動いた様子さえ見えなかった。足元の刃物、クナイから距離をとろうと後退すると柔らかい壁に当たる。自分のでない大人の腕と手が見えて降り注ぐ声。

「力差がわからんか。まあいい。伊達政宗が来るまで生きていれば良い話だ。足の腱なり脚なり切っておくか」

「――――っっっい、嫌、だぐぅ?!」

身長、体重、共に差がありすぎて上からかけられた圧力に逆らうこともできないで地面にひれ伏された。頬が土と擦り合い、押さえられた身体は自由が利かずかろうじて上を見れる目だけが男を向く。

日の光を反射する刃物と、目元を弧で歪める男。恐怖を見せびらかすつもりかあの、見えない素早さはなく黒く光る刃物が一度、眼前に晒されゆっくりとずれていき着物が肌蹴た素足の表面をなぞっていく。


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