その冷ややかな声に一瞬息を忘れてしまい、まずいまずいまずいと焦り始めたのは抱えられて森の中を移動しているときだった。 手足も縛られて動かしても魚がビチビチはねるような動作ができるだけ。 それでも暴れないよりはマシだろうとビチビチ暴れていたが抱えている人にはまったく害がなくて、途中で疲れて終わった。 木々の合間を抜けて、風の音が耳を痛くする。 政宗さまは今頃どうしているだろう。抵抗するのに疲れた俺が考えるのはそれだけ。 黙って出て行ってしまったこと怒っているだろうか。いや怒っているに決まっている。けど仕方なかったんだよ、猫が―――といっても始まらない。 政宗さまの"命"を狙う人に捕まっているんだ。 そんな言い訳なんて、したって。 目頭が熱くなって涙がボロボロと零れた。頬を伝う前に風に攫われて宙へと飛散していく。 政宗さまの顔と謝罪とこれからどうなってしまうのかという恐怖が涙としてだらしなくこぼれていく。 政宗さまは大丈夫だろうか。 ごめんなさい。 俺は、どうなっちゃうの? 風が止んで、移動のゆれもなくなって涙でにじんだ視界でそっとみると古ぼけた小屋がひとつ。 その周囲に似たような服装をした男の人たちがその小屋の周囲に立っていたり、幹に腰を下ろしていたり、手元の刃物を研いでいたりしていて、それらが一斉にこっちを向いた。 「この子をつかって伊達政宗を誘い出す。策は手はずどおりに頼む」 その言葉にみなが深く頷き俺を抱えていた男が小屋の戸を開けて放り込んだ。 物がいろいろと放り込まれている小屋の中に放り込まれて床のでこぼこに苦痛の声をもらす。 いつか誰かにこんな風に放り投げられたことがあった気がした。 長髪の青年が戸を掴んで見下ろしてくる。 その見下ろす目はどこか憂いがありじっと見上げていると落ち着かない。数秒という短い間、互いに視線を合わせあったのちに青年は小さく笑った。 「安心しなさい。わたしは決してキミを傷つけやしない。そんな事をすればわたしは爺に怒られてしまう」 「爺・・・?」 「そう」 軽く頷いて人差し指を口元へ。"これ以上は教えられないよ"とでもいうようにより一層笑みを深くして戸を閉めていく。 「キミはここで大人しくしていなさい。解放する頃には"終わっているから"」 その言葉を最後に誰の声もしなくなった。 [*前へ][次へ#] |