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狂い狂わせ狂われた
龍を釣る話1



困った。


困ったよ困った、本当に困った。






俺はどちらに向かえば良いのかさえもわからず右往左往と歩いていた。

「あー、うーあー・・・誰も通りかかんない」

まったく人が通らない。

こんなに広い道だというのにまだそんなに日は傾いてないっていうのに誰も通らない。

それよりも、道ってこんなに人が通らないものだったかな?とそればっかし考えてしまう。

だって俺のしってる"道"っていったら人がたくさんいて、この時間なら人間ラッシュになっているそんな道。特に人が多い"道路"は――――

「ん?いや?けど俺、城からでてないし・・・」

どこからそんな妄想引っ張り出してきたのだろうか。

城以外からでた覚えもないし、それ以前となると俺自身もわからなくなる。

何もわからない。

きっとそういうのは記憶喪失っていうんだろう。

自分が誰だったか気にならない、っていうわけじゃないけれども別にそこまで知りたいって思わないし、今の状態が気に入ってるから今のままでもいいかなって。


それに、ほら。

記憶喪失ってことは本人が精神的ショックを受けたから起きるものなんだから、きっと思い出さないほうが俺のためなんだよって思う。




「誰か通らないかなー・・・・・・あ!」


とぼとぼと歩く俺の脇の木々から器用にも男の人が降りてきた。

木の枝から無駄なく飛び降りてきた人たちは皆、上半身薄布一枚に、毛皮の腰巻、ズボンという山で生きていますとでも表現している服装にかっこいいと思ってしまった。


「見つけた」


その中で一番身長が高く長い髪を後ろで結わいている青年が俺を一瞥すると「捕まえろ」という指示がでて、その状況についていけずに慌てていたらいつのまにか両手を後ろで縛られ担がれていた。

「はっ、はなせムグゥっ・・・!」

人通りがないところだってことわかっているのにどこかに連れ去られると思った瞬間恐怖で叫ぼうと口を開いていた。

しかしそんな動作お見通しらしく口を開けた瞬間布をねじ込まれて声が虚しく口内で振動のみで終わる。

「安心しなさい。我々はキミをどうこうするわけじゃない。ただ、餌になってもらうだけだ」

長い髪を後ろで結わいている青年が抵抗のできない俺を見て笑いながらこう言った。






"伊達政宗を釣る為の餌にね"と。



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