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狂い狂わせ狂われた
親鳥の決断5





つかさがいなくなった。

きっと何処かに隠れているのだろう。つかさならやりかねない。そう軽い気持ちで政宗様――殿へと尋ねに行った。本当に軽く"いなくなった"としか思ってはいなかった。

この戦乱のご時世"誘拐されたり間者が紛れ込んだり等"当たり前だというのに。

それらの当たり前である疑心はつかさへと向かなかった。

違う。
つかさはそんな事をするような人間ではない。心ではわかっている。理解している。つかさは子供だ。それほどつかさの笑顔、言葉、動作が愛しく思える。だから大丈夫なんだ。そう"思っていた"。

そしてつかさがいなくなってから今の今までなかった疑心が闇の壷からあふれ出した。



綱元は珍しくも仕事に取り掛かれず、呆然と庭を眺めながら思考の海に、疑心の海に溺れていた。

つかさの心配とつかさへと疑いが互いに睨みを利かせている。

成実や忍たちの情報次第では、敵と見なさなければならない。

そう思うと自然と力が入り、紙に皺をつくっていた。

「・・・影綱に言えたものではないな」

いつか、最初のほうだったか。初めてつかさという存在を見て、そのつかさに対して気を許した瞳で見ていた小十郎へと告げた言葉。





―――"・・・ふ。成実とあの子供、まるで兄弟のように親しげにしてるが"いざ"という時大丈夫なのか?"


――――"・・・ああ見えて成実は区切るのが得意だってことはよく知ってるだろうが"


―――"なら影綱、お前は?"


――――"・・・。"


あの頃ならば普通にためらいもなく"斬れた"だろう。

むしろ甲斐甲斐しく世話をしている義理兄を見て情けないと、不機嫌にしたぐらいだった。


だというのに今は、その時の影綱の気持ちがわかり、同じように気を許し、つかさはいい子なのだ、と心で感じている。

それこそ感情を数字で表せないように、どうしてそう思うのかという根拠の説明などできない。

できないからこそ、つかさが愛しいとさえ思うのだろう。

戦の世、心以上に損得が必要であり考え抜かなければならない世。あれこれ考えなければ情報を手に入れなければ国を守る我らは、天下を取ろうとしている我らはすぐにでも滅してしまう。

誰も彼もが、情報という波に揉まれ疲労しているのだ。

その中にそんな事を知らない、ただ"自分が思ったから"と、計算もなく不純な気持ちでもない、心の感じるままに過ごしていたつかさに癒しと安らぎを求めた。

綱元も勿論のこと、そのうちの一人にはいる。


「・・・・・・私、は」


"いざ"という時、つかさを敵と見なし斬り捨てる事ができるだろうか―――――?


まだ冬には遠いが、乾いた風が冷たく感じて身を震わせた。

そしてたった今、敵だった場合の事を考えていたというのに思考の隅で「寒い思いを、怖い思いをしてはいないだろうか」と心配している事がなんとも滑稽に思えてしまい。

「・・・・・・。」

そんな不安定な己を鼻で嗤う。

空には暗めの雲が今にも日を覆い隠そうとただよい、夕刻には雨が降り出しそうだ。

綱元は仕事を進める気力さえなくなりただ、ただ、庭の先の塀の先の何処かにいるであろうつかさを思う。


はやく誰でもいいからつかさに関する情報を持ってきてくれないだろうか、と切なに願った。

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