城下町前までくると民の賑わいの声が聞こえてきて、ここはまだ大丈夫だとほっと息をついた。 城下町へ辿りつき外側へと向かう間、成実達に気付いた民が優しい表情で頭を垂れていく。 争いもそこまで無く、税も妥当。奥州の地に生まれ、梵の政治のもとで過ごす民は運がいい。 これで戦がなくなれば幸せものだ、と口元を綻ばせ目的地へとついた成実達は足を止めた。 「―――よし。んじゃあ、一斑は城下町外周辺の警備。二班は城下町内警備。三班は城方面の城下町外周辺の警備。数刻すれば四班がやってきて三班と交代してくれるから。そしたら三班は二班と交代して、二班は一斑と交代して、一斑はその間休憩。一時間後に回るように交代して」 「了解しやしたー!」 活きのいい声が返ってきて成実もやる気がでてくる。 「何かあったら城のほうに知らせろよ?じゃ、俺はまた別の用事あるから」 つかさを探すという仕事が。 成実のもとへ一人の忍がやってきてひざまづく。 「城からの報告です。城壁部に"子供"ほどが通れる程の穴があった。調べたところ随分前からの破損である、ということでございます」 「・・・・・・わかった。行け」 最後の一言に姿をくらます忍。 城壁に"子供"ほどが通れる穴があったという小さな情報。 だが、成実はその情報で一つの確信を得て安堵の息を長く吐き出した。 つかさが、裏切り者、間者である可能性が低くなったからだ。 それだけの情報で決め付ける訳にはいかないがつかさのあの年齢に合わない子供らしい性格のことだ。 たまたまその穴を見つけて興味心で外に出た可能性のほうがありえる。むしろそうだろう。そうとしか思えない。 「・・・・・・プッ。しっかしなー、"子供"ほどが通れる穴って・・・」 いや、まあ確かに子供といえば子供だが、年齢的にはもう元服してるぐらいだっていうのに。 まあ、身長も伸びない、頭も成長しない、きっとずっと子供のままなのかもしれないな、と自分を棚にあげて考え笑ってしまった。 「―――さーて、仕事しないと梵にたたっ斬られる」 国主である政宗の代わりにつかさを探しに行く。 あのつかさがいなくなったと告げられたときの政宗は自分のもの全てを奪われたかのようなのっぺらとした情の無い表情をしていた。 いつか、父を殺した時の、弟を斬った時の表情とそっくりで咄嗟にダメだと、これ以上、梵の大事なものを亡くしてはいけない、そう肌で目で心で感じた。 成実や小十郎などと確かに大事なものは他にもある。 だが、結局は国主と家臣。家臣には踏み込めない領域がある。限度というものがある。 それはいくら幼少の時から仕えてきた小十郎であれど同じなのだ。 だがつかさは家臣ではない。 金で雇われた存在でもない。 そしてこの時代にはないであろうその不思議な魅力。 気がつけば家臣が踏み込めない政宗の領域に入り込んでいている。 そして家臣である成実達の中にも――だ。 もしかしたら片目を無くし疎まれる存在となった政宗を愛した父よりも、化物と母から呼ばれているのを知っているというのに"兄上"と慕う弟よりも、いや、彼等という過去があるからこそ彼等以上に大事に思っているかもしれない。 そう考えると絶対につかさを無事に連れ戻さなくては、と心から損得なしに思うのだ。 [*前へ][次へ#] |