「痛々しいの」 「まだ子供じゃあないか」 庭でしげに遊んでもらっているつかさ。 その姿をチラリチラリと見かける城の者たちは話のネタを見つけたとばかりに囁きあう。 「夜に狂ったかのように暴れていたと聞いたぞ」 「ああ。しかもその時の記憶は覚えておらんようだぞ」 「まことか。どこぞの妖の仕業か?」 「かもしれぬ。噂によれば殿の前にいきなり姿を現したのだとか」 「――いや、あの者自体が妖かもしれぬぞ。・・・殿はいつまであのようなモノを――――」 こほん。 清々しいほどきれいに聴こえる咳で従者の者どもが一斉に口を閉じた。 視線を向けると綱元が鋭い目で彼らを見ていた。 会話を聞かれていたということに焦りを覚えた彼らは話を逸らすために「きょ、うも良い天気でございますな」と乾いた声をかけた。 それに対し淡々と「そうだな」と返事を返してその場を過ぎる。 「ああ」 彼らの間を抜けた綱元が足を止めて振り返った。 「政宗様が直々に稽古をつけてくれるそうだ。――その時が楽しみだな」 従者たちはもちろんそんな話を聞いた覚えはない。 が、綱元は政宗の懐にもはいれるほどの地位がある。 それは、つまり今の会話を政宗に報告する、ということになる。 そして稽古と評しての――――。 どんどん青ざめていく彼らの様子を一瞥して鼻を鳴らし、庭で遊ぶつかさへと視線を向けた。 つかさはまさかそんな事を影で言われているなどと知りはしないで成実に追いかけまわされている。 幸せなものだ。綱元は呆れため息を吐く。 昨日の夜。 つかさが暴れだしたというのを影綱からきいた。 何が原因かわからず、嫌の一言だけを叫び続けたという。 今までの日々で笑ったり拗ねたりと正の感情しかみた事のない綱元はすぐには信じられなかった。 だが政宗様も同じようなことを言う。本当のことなのだ。 庭先で遊ぶ今のつかさからはその様子はうかがえない。 それほどのものとなったからには次の日には焦燥しているのではないか。 だというのにまるで忘れたかのように笑顔で、何事もなかったかのようにいつも通りに過ごしている。 きっと"覚えていない"のだろう。 「綱元さんー!」 きゃーと男だというのに女のような声を出し綱元へと駆け寄ってくるつかさ。 後ろからは成実が意地悪そうな顔で追いかけてくる。 「助けて、綱元さん!」 履物を脱ぎ捨てて走った勢いが止まらなかったのか綱元の周囲を一周そして、着物をつかみ背後へと隠れた。 庭で足を止めた成実が抗議の声を上げた。 「つかさ!ずるいぞ!」 「だって、しげが悪いんだもん!」 「〜こ、の、や、ろ、う!」 両端を吊り上げ、悪党の如く笑みを浮かべる成実。 今にも飛び掛りそうな姿勢で、案の定、飛び掛ってきた。履物を履いた状態で。 「う、わあああああー」 土足で上がりつかさへと攻め寄る成実。右から逃げようとするつかさを先回りしてとめる。 そしてそちらからは逃げられないことに慌てて反対側から逃げようとする。 しかしそこでも成実に先回りされて逃げられず、と右へ左へ右へ左へと慌しく動き回る二人。そしてその間に挟まれる綱元。 ブチリと切れる音が響く。 「・・・・・・成実、いい加減にせぬとたたっ切るぞ」 懐から取り出す短刀。鞘を抜き切先を向けられる成実は甲高い悲鳴をあげた。 「ええええ!?俺だけ?俺だけなの!?」 「喧しい。これ以上黙らぬのならば本気で成敗するぞ」 「せいばいーせいばいー!」 獲物を向けられているというのに楽しそうに成敗成敗とやんややんや騒ぐつかさ。 綱元の目つきが割りと本気で、大人しくなる以外に最良の選択がない。 結果、ぐぬぬぬと堪え静まる成実。 「つかさ、私の手伝いをしてくれ」 「政宗さまのところにもっていく仕事?」 「そうだ」 [*前へ][次へ#] |