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狂い狂わせ狂われた
逆様になった歯車3










「政宗様」



真夜中に名を呼ばれ、ゆっくりと目を覚ます。

起き上がるとそこには警備の忍がひざまづいていた。

「―どうした」

城で何かが起きたのか。

布団の傍らにおいていた刀を手に取った。

「少年――つかさ殿が・・・」



その名の後に続く言葉に頭の中がpure white(真っ白)になっていった。


大きく赤い満月が見下ろす晴れた夜。

その下を俺はつかさのいる元へと駆け出した。未だ頭の中はpure whiteで、つかさの名前だけが反響していた。

――つかさの部屋からだいぶ離れているというのに、声が聞こえた。

空が割れてしまいそうなほどのひび割れしわがれた声が、聞こえてくる。

「っ―――つかさ!」

ここからだと俺の声は聞こえないというのに、叫ばずにはいられない。

俺は、知らぬ間に、こんなにつかさを想っていたのか。


走る間に身体中に響くこの心音も、この胸が締まるような鈍い痛みも、つかさのことしか考えられない頭も、全部。

つかさを想うが故の現象だ。俺は今、こんなにもつかさを想っている。奇妙なことだ。不思議なことだ。今までこんな気持ちを感じたことがなかったというのに、今はただ焦がれるほどつかさの身を案じ、心配している。


つかさの元へと辿りついた。

その頃には小十郎が狂ったように暴れるつかさを押さえつけており、成実もまたつかさの暴れる足の上に跨りとめていた。

「つかさ!!」

こっちの耳が痛くなるほどの声を吐き出すつかさは涙と鼻水とでぐしゃぐしゃになった顔を左右に振っていた。

嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。

と何度も何度も首を振る。俺たちの事なんか頭にはいっちゃいない。

こういうときは。

どうやって落ち着かせれば良いんだ。

「つかさ、つかさ!落ち着けつかさ!」

「や、嫌嫌、嫌、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・!!!!」

「くっ・・・。忍!薬をっ」

手刀で気を失わせれば良い、だなんて考え付かなかった。

いや、つかさを傷つけるような事など浮かべたくもなかった。

薬に詳しい忍へと怒鳴りつけるように叫ぶ。



忍は俺の慌てようにうろたえていたが、すぐさま懐から取り出した液を布に浸し――暴れているつかさの口元を塞いだ。


最初こそは暴れていたが、薬の効果が聞いてきたのか、手足がだらりと床に垂れて最後には飛び出すぐらいに見開かれていた目も口も、ゆっくりと閉じた。

不気味なぐらいの静けさが包み込む。


「―――・・・つかさ」

完全に気を失ったのを確認した後に小十郎が抱き上げ布団へとゆっくりと寝かした。

安心の息を吐いた成実。俺もひとまずは安心だと息を吐いた。



「これでひとまずは大丈夫でしょう・・・。ここは小十郎に任せ、ご就寝ください政宗様」

「NO.俺も残るぜ小十郎」

「俺も!」

小十郎の溜息が聞こえた。

それでも断わりはしないらしく寝入ったつかさの脇へと正座した。

「・・・今回だけですよ」

「おう」

小十郎にならいあぐらをかいて座る。

月明かりだけの部屋の中で小十郎が手ぬぐいで濡れたつかさの顔を拭いているのを眺める。


つかさは何なんだろうな。

何を抱えているのだろうか。

いや、人間ってのは誰もが何かを抱えてるもんだ。ただそれが周囲から見て、軽いのか重いのかなだけだ。



目尻と鼻を赤くしたつかさを見つめる。


目を覚ましたとき、大丈夫だろうかと不安を抱えたまま重くなった瞼をゆっくりと閉じていった――――。




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