「土方さん手ぇ貸して」
刺す様に冷たい風が頬を叩くのを我慢し、沖田は白く息を吐き出しながら隣の彼にそう言った。
冬は辛い
人もまばらな通りを二人は歩いていた。
休日になると結構な人だかりが出来るのに、平日の今日はやけに少ない。冷える空気が全体的に広がる様な気がした。
人が居れば。
もっと沢山の人が歩いていれば、こうも心が寂しくならなかったろうに。
空さえ暗く澱み、今にも静かに雪をちりばめそうだ。
「ねぇ、土方さん」
沖田はちらり、隣の彼を見た。
土方は煙草を口にし、目だけジロリと寄越した。何だか自分の願いは叶えられない様な気がして、沖田は諦め前を向く。
巡回が終わったばかりなのだ。
少しくらい、気を抜いたっていいだろうに。
無駄口を叩くな、とでも言われている様な気がして少々気持ちが沈む。
向こうを歩いているサラリーマンに目を向けた。手袋をしている。いいなぁ、俺も暖まりたい…。
「何で、手を貸さなきゃならねェんだ」
「!」
コツコツ響く足音だけを聞いていたら、土方が返事をした。返してくれるとは思わなくて、沈んだ気持ちが浮上する。良かった。土方に無視をされたらさすがの沖田も滅入ってしまう。
「どっちが冷たいかなって気になったんです」
「……へェ」
土方はポケットに突っこんでいた手を口元に持っていき、煙草を吸った。思い切り肺に吸い込みそのまま美味しそうに煙を吐き出す。携帯灰皿を取り出し、煙草を消した。えらい。最近の土方はきちんとマナーを守っている。
動作を見つめ沖田はどきどきと心臓が高鳴るのを感じた。格好いいのはもちろんだが、土方の手にある携帯灰皿が原因だった。
つい最近、沖田がプレゼントした物だった。
「……。」
何だか無償に恥ずかしくなってしまった。
あ、それ俺がやった奴ですね、と声を掛けようかと考えたが、やめておいた。言えない。そんなことを言ったら、顔から火が出てしまいそうだ。ここはスルーしよう。心の中で喜ぼう。
「ん」
「えっ」
もぞもぞとマフラーに顔をうずめ、その後土方が片手を差し出した。その行動が何だか可愛くて、吹き出しそうになってしまうが、我慢だ。ここで笑ったりしたらとたんに手をひっこめてしまうだろう、副長は結構恥ずかしがり屋だったりする。
「ありがとうございやす」
両手で土方の片手をそっと握り、沖田はぎゅっと目をつぶった。ひゃぁ、と口が動く。
「土方さんの手冷たいですね」
「んだよ、お前の手だって冷たいだろが」
「えっ土方さんの方が冷たいでさ」
「同じくらいか?」
ぺたぺた沖田は土方の手を触り、冷たい感触を味わった。ただでさえ冷たい自分の手が、更に冷たさを増した気がした。針で刺されたと勘違いをしてしまいそうに、土方の手は冷たい。
「冬は嫌ですねェ」
「そうだなー……冷え症には辛い時期だよな」
「土方さん、何だか昔より冷え症ひどくなってませんか」
「煙草が原因かもな」
「あぁ」
「それと、お前が子供体温だったんだよ。昔は。」
ふぅんと曖昧に返事をし、ちゃっかり沖田は片手を離さず歩いた。何か言いたそうに土方がマフラー越しにもぞもぞと口元を動かしたが、諦めた様に前を向いた。
「煙草止めた方がいいんじゃないですか」
「それは嫌だ」
「ヘビスモも大概にしなせぇよ」
真似をする様に、沖田も自分のマフラーを口元まで引き上げる。
思わずにやけてしまいそうだ。
何だこの展開。土方が、文句を言わず手を繋がせてくれている。
「んなこと言って灰皿くれるしな、総悟」
「あ、あー……」
「クク、」
体温が上がる。
墓穴を掘った様だ。そうだよな、灰皿をプレゼントしておいて、さっきの発言は確かにおかしい、と沖田は思い下を向いた。
「早く帰って炬燵入りましょうや」
「うん」
気恥ずかしくて、早く暖まりたくて、沖田は足を速めた。すると土方が手を握り返す。ぎゅっと繋がれ沖田は速度を落とした。マフラーの中、ハァと息をすると口元が暖かい。…熱いくらいだ。
手は冷たいままだったけれど、顔から首にかけてポツポツと静かに沸騰している。
「冬は嫌ですね」
「あぁ、寒いのは苦手だ」
二人はそう言い冷たい手を握り返すのだ。
Thanks!「冷たい手」
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何が言いたいのかと言うと、タイトルまんまです(叶は冬が苦手
嫌い嫌い言っても、結局冷たい手でても繋ぎ合っていたい二人が書きたかったんです。矛盾が素敵^^
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