見つめる視線
「あ」
「あ」
「!」
何か突然視線を感じて。
土方は動かす手を止め後ろを振り返った。
重要な書類に手を付けていたのだが、どうしても気になったのだ。集中していたが仕方がない。誰だ、と思い振り返る。
襖にチラリ。茶髪の彼が少しだけ見えた。
「総悟?」
特徴的な髪の色。
もちろん沖田だと土方は判断し呼びかける。しかし。
「・・・」
返事がない。
しばらく待っても返事が来なかった。
仕方なく土方は立ち上がり襖の向こうを覗いてみる。
「あ?」
副長室から伸びた廊下には誰もいなかった。
何なんだ一体・・・。土方は困り果て溜息。
今回で何度目だろうか。
副長室の机に戻り、土方は筆を片手に仕事に取り組む。手を動かしながら考えた。
いつからだろう。
最近、気が付けば後ろに沖田がいる気がする。副長室を覗き込んで来たり、隊士に稽古を教えているとじっとこちらを見つめて来る。
昨日だってそうだ。巡回しようと屯所を出ると視線を感じ、振り返ると沖田がいたのだ。・・・すぐ逃げられてしまったが。
「あっ」
土方は慌てて古紙に手を伸ばし書類に押さえつけた。
墨が乾ききっていないのに手で擦ってしまったのだ。当然墨が伸びその書類は駄目になってしまった。
「クソ」
当然左手が墨で真っ黒になる。
苦々しく見つめ立ち上がった。何だってんだ・・・一体。
沖田の行動を思いだし土方は一人首を傾げた。
「恋する乙女かよ・・・あいつ」
手を洗いに行きながら独り言。
いやそんなまさか・・・と思いつつ、そうだったら?と自問自答。
・・・少し自分が気持ち悪くなった。
「オイコラ総悟。さっき副長室に来なかったか?」
「えっ」
案の定夕食でもじっと見つめられ土方は我慢できず、夜、沖田の部屋に直々に向かった。
逃げられるのならば、直接部屋に聞きに行けばいいのだ。沖田は土方が部屋に来るのを嫌がるがこの際関係ない。
視線の理由を知りたかった。
「なぁ。なんか理由があんだろ」
「・・・、やー・・・」
見下し問うと気まずそうに沖田は視線を逸らす。
土方はぷっつんキレそうになるのを必死で我慢し続けた。
「おい。気になんだよ。お前の視線」
「・・・っ、えっ」
えっ?
先程までイライラしていたがその気持ちがさっと消えた。え?何だ、その反応。
ただ単にいちいち視線が気になって仕事に集中できない、と伝えたかっただけなのだ。それなのに、この反応は、何だ。
沖田がじわりと顔を赤くし俯いていた。
「総悟・・・?」
「へっ、へぃ、」
「どうした」
何も言い返さずただ俯くだけの沖田に土方は戸惑う。そして心配になってしまった。いつもの皮肉も何もない。一体どうした、総悟。
「いえ、何でも・・・ありやせん」
「嘘付け。おら、こっち見ろよ」
「・・・嫌でさ」
土方はしゃがみこみ沖田と視線を同じにする。すると嫌だ、と言いさらにちぢこまる様に俯いてしまった。どうしようか・・・。土方は途方に暮れる。
「はぁ、総悟。」
「はっ、はい?」
「俺に話すこと、あんだろ。話せ。こっち見ろ。・・・困る」
「!」
素直に、土方は口にした。そう。困るのだ。こちらを見てくれない。話もまともにしない。困る。そして・・・寂しいではないか。
「(寂しいて、とうとう頭イカれたか俺)」
さすがに気持ち悪いって思われるかなァ、とぼんやり土方は沖田を見た。すると。
「こ、困るって、何でぃ、」
「え」
「だって、どうせ、俺がしゃべったって、土方さんと話ししたって、結局困るだけ、でぃ」
「?」
困る、といった言葉が効いたのか、沖田はちらちらこちらを伺いながらやっと喋る。土方はどきりとした。
何でこんなに顔が赤いんだ、こいつ。
「総悟?困る訳ねェだろ」
「こ、困るに決まってまさ・・・!だって、だ、て、」
「うん」
「だって、俺、土方さん、土方さん見ると、顔が、顔が、いつも、こんな、」
「っ、」
やばい。
土方は胸がざわついた。近寄ると逃げられていたし、視線をこちらに向けるだけで沖田は土方と距離を置いていた。こんなに近くで沖田の顔を見るのは久しぶりだった。
沖田の顔が、真っ赤だった。
「(こいつ・・・!)」
もしかして、俺のこと・・・?
なんて自意識過剰もいい所だが、だって、それ以外考えられない。
土方を見て、一人顔を赤くしている沖田を思い浮かべ、くらくらした。
「何で?」
「へ・・・?」
「どうして、顔、そんな赤いの」
「っ!」
指摘してやると沖田が自分の両手で顔を覆った。土方はほっとする。そう、今は顔を隠しとけ。・・・多分、俺も同じ顔してるから。
「ど、どうし、どうしてって」
「なァ、いつもって、本当?」
「〜、」
「いつも、俺見てそんな顔してるの」
こくりこくりと頷く。
そんな沖田を見て土方は片手で顔を覆った。これは、もう確定か。
「なぁ、教えてくれねェか。どうして?」
「っひ、俺、」
「うん」
「土方さん、が、好き、過ぎて、」
はぁ、と土方は熱い息を吐き出した。
そうか、そっか、と繰り返し身体全体が熱くなる。恥ずかしい、けれど、すごく嬉しい。
片手で顔を覆っていたが、そっと離した。沖田の顔が見たくて。
「そ、!」
「ひ、!、」
土方は慌てて沖田の両手を掴んだ。無理矢理こちらを向けさせる。・・・沖田の手が震えていた。
「わり、ごめん、」
「ひ、っく、」
泣いていた。
真っ赤な頬を雫が走る。土方は慌てて謝る。ごめん、何言わせてんだ、俺。
「こ、こまる、困らせるから、土方さん、と話すと、俺、ぜったい、顔熱くなるし、困らせるから、近寄れ、なかった、」
「うん」
「でも、好きで、土方さん、好きで、俺、上手く隠せな、」
「総悟。」
「っく、?」
「隠さなくて、いいから。見るだけじゃなくて、来いよ、俺のとこ」
「えっ?」
「いつでも来い。・・・嬉しいから」
「え、!」
顔を近づけそう言うと、沖田の顔が爆発しそうに赤くなった。目を丸くし驚いている。あぁ、可愛いなァ、なんて思い土方は沖田の額にそっと唇を落とした。
「!」
「総悟ばっか言わせてごめんな、・・・俺も好き」
「はっ、!?」
「困るかよ。嬉しいっつの」
「、」
じわりと更に涙が浮かんできて、土方は慌てる。えっ、どうしようか。何を言えばこいつは泣き止む?めったに泣かない彼なのだ。泣き止む術を知らない。
「泣くな、な?」
「ひ、ひく、うれし、うれしいって、本当ですか・・・?」
「あ?あぁ、うん。むしろ顔真っ赤にして話しかけられるとか願っても叶わないんですけど」
「え、えぇ、?・・・へへ、土方さんのばか」
「馬鹿言うな。クク、ほら、涙拭け」
「うっ、うん、」
沖田の部屋にあったティッシュペーパーを拝借し顔を拭いてやる。綺麗な涙が薄いそれに吸い込まれていった。
「土方さん、」
「ん?」
ぽい、とゴミ箱に投げ入れると突然身体が重くなり、土方は何事かと沖田を見た。
沖田が土方にのしかかる様にして、抱きついていた。
「総悟!?」
「土方さん」
「・・・何だ?」
そっと抱き締め返し、土方は沖田の続きを促す。
「明日から、土方さんとこ行きます。・・・見るだけじゃなくて、今度から。」
「うん。そうしろ」
「もう、離れたくない、でさ」
「・・・俺、だって」
横目で見た沖田の耳が真っ赤に染まっている。
それを見てどうしようもなくくすぐったい気分になった。
どうしようか。
きっと自分も今、同じ様に耳は真っ赤だろう。
***
ミカン様リクエスト『土方さんのことが大好き過ぎる沖田くんと何となくそれに気づいている土方さんの話』でした!
すみません、絶対に想像と違う物が出来上がってますよね・・・orz
本当にすみませんでした・・・
そして沖田が乙女に・・・!これまたすみません。でもすごく楽しかったです!
少しでもミカン様が楽しんでくれる様願うのみです・・・!><
ではでは、ミカン様リクエストありがとうございました!
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