※吸血シーン有り(って言ってもそんなないです
「だれ?」
「はっ?」
「誰です、かぃ?」
蝙蝠が飛ぶ家
家政婦はいつも不機嫌だ。
愛想笑い一つも無しに、土方をどうぞと屋敷に案内をする。少々白髪交じりの頭を後ろから見下ろし、土方は苦笑いをした。いつもだ。このオバサンはこんな反応しかしない。
やけに広い洋風の庭を眺めながら、いつものルートで部屋へ向かう。渡り廊下を歩いていると、噴水が勢いよく水を吹き出した。綺麗に弧を描き、きらきら太陽の光を反射した。数分すると止まるのだろう。止まっては吹き出し、止まっては吹き出しを繰り返す噴水。どんなカラクリになっているのか分からないが、ただたんに綺麗だな、と土方は思うのだ。
そんなこんなで庭や絵画を眺めながら足を進めると、屋敷の二階、端にある小部屋へ案内された。
コンコン、家政婦が扉を叩く。中からはい、と少年の声。
「土方さん!」
「よう」
扉が開くと大きな白いベッドがあった。ベッドの背もたれに身体を預け、こちらを向く少年が一人。
「ごめんなさい、今日はちょっと調子悪いんです。この格好で勘弁してください」
「いいよ。俺こそ、悪いな。すぐ帰るから」
「や、大丈夫!朝より元気になりましたから!」
「・・・本当かよ?」
「うん。へへ」
少年の名前は総悟といった。
小さい頃から体が弱く、一日中ベッドで過ごすことも普通らしい。昔よりは身体が丈夫になった、と総悟は喜んでいるのだが、油断はできない。
土方はベッドのすぐ横にあった椅子に座る。それを見て総悟はにっこり。その顔を保ったまま、家政婦にこう告げた。
「もういいですよ。土方さんとお喋りしてます」
それを聞き家政婦は同じ様ににっこり笑って下がって行った。土方は思わず顔がひきつる。おいおい、客より坊ちゃんにいい顔すんのかコラ。
バタンと扉が閉まり、パタパタ足音が遠ざかった。それを聞き総悟は口調を変える。下品だと親族に笑われた為、めったに喋れないその口調に。
「三日ぶりですねぃ!」
「あぁ。悪いな。毎日来てやれなくて」
「いや、俺の我が儘を聞いてくれるだけで、ありがたいです。何も不満はありやせんよ」
「もともとは俺が悪いしなぁ・・・」
「あはは」
土方は三週間前の出来事を思い出し苦笑いをした。
「コウモリ、あれからどうです。元気ですかぃ?」
「え、あぁ、元気だよ。今日も家で眠ってる」
三週間前。
土方が逃げたコウモリを追いかけこの屋敷に入り込んだのだ。丁度二階の総悟の部屋に。
泥棒ですかぃ?人を呼びますよ。そう呟いた総悟に、土方は焦ったものだ。さすがに警察沙汰は避けたかった。
なんとか総悟を説得し、このことは黙ってくれるよう約束してくれた。ただ、そのかわり・・・
「今日は何の話をしましょうかねぃ」
この屋敷に頻繁に訪れ、話し相手になってくれ、と総悟が言い出した。
病弱なため、歩いたり外に出かけることは禁止されている。しかしその間ずっと寝ている訳にもいかないし、屋敷にある本は全て制覇してしまったしで、ぶっちゃけ毎日つまらないそうだ。
勉強をするにも、家庭教師が来る時間は限られている。空いた時間がどうにも暇だった。
そこで交換条件を出した。土方が不法侵入して来たことは黙っている。けれど、暇な時間相手をして。
「(ま、いいけどな。俺だって総悟と話すのは嫌いじゃない)」
土方はそう思い、さて何を話そう、と頭を回転させた。コウモリの飼い方は話しただろ、何か話題になるもの・・・。
すると総悟がいきなり。
「しかしコウモリがペットだなんて、変わったお趣味をお持ちでェ。吸血鬼ですかぃ」
なんて言い出した。
「い、いや、何というか、珍獣が好きなんだ、よ」
内心ぎくりと嫌な焦りが脳内を占めたが、土方はなんとかポーカーフェイスを保った。
まさか確信めいた事を言われるとは思っていなかった。なんとか話題を探し、逸らす。
「ちんじゅう?」
「あぁ。ワニとか結構格好いいぜ?」
「わに・・・見たことありやせんねぇ。見たいなぁ」
「いつか動物園に連れていってやる」
「本当ですかぃ!」
「あぁ、早く体治せ。な」
「はい!」
「栄養のあるもん食べるといいんだよ。何だったか・・・あれが身体に良いって聞いたな・・・あれ・・・」
なんとか話題を逸らすことに成功し、土方はほっとした。
土方は吸血鬼だった。
三週間前、本当は、血を求めて屋敷に忍び込んだのだった。
「えっ、土方さんて、そんな遠い所行ったことあるんですかぃ!?」
「うん。っつっても結構前だがな」
「いいなぁ。俺も旅行みたいなの、してみたい・・・」
「そうだな。いつか一緒に行けるといいよな」
うん、と総悟が頷いた瞬間扉の向こうからコンコン、と音がした。
総悟が少し待ってください、と扉に返事をする。土方は時計を見てみた。
しまった。もう一時間と三十分経っていた。
「じゃぁな、総悟。また来るよ」
「はい、是非また来てください!えっと、ちょっと待ってくだせぇ、土方さん」
「ん?」
扉の向こうには家政婦がいるので、小声で土方に話しかけ、総悟は手招きをした。
何だ?と不思議に思い、土方は総悟の口元に耳を傾ける。
「 」
「!」
坊ちゃん。
扉の向こうから焦れたような家政婦の声が聞こえた。総悟は慌てて返事をする。
「はい、もういいですよ」
「・・・じゃぁな、総悟」
「はい、また。」
少しだけ寂しそうに総悟が手を振った。それを見て土方の胸がつきり。まだここに居たいだなんて感じていた。
扉を閉めたとたん不機嫌顔になる家政婦についていき、土方は庭の噴水を見てみた。
水は止まっていた。
。。。
「総悟?」
カタリ、窓枠に手を添えたら小さな音がした。
音を鳴らさず静かに部屋に入り込み、生命の源である生き血を啜るのが吸血鬼だというのに、なんてザマだ。これだから総悟にバレるのだ、と土方は少々自己嫌悪に陥る。
「総悟?」
もう一度呼んでみた。
・・・眠っているらしかった。
昼間、総悟は土方の耳に口を近づけこう言った。
今夜、是非屋敷に来てください。窓の鍵は、ちゃんと開けておきますから。
何がしたいのだろうかと思うと、コウモリが見たいのだという。コウモリは夜行性だ。夜屋敷に連れて来てほしいのだとか。
「(おいおい、どうするよ、俺)」
土方のコートの中でおとなしくしているコウモリをそのままに、土方は窓から部屋へ入り込んだ。今度は音を立てず、優雅に高級カーペットに降り立つ。
そっとベッドに近寄ってみた。
吸血鬼は夜目がきく。暗闇のはずのそこに近付き、総悟の顔を覗き込んでみた。
「眠ってんなこりゃ・・・」
すやすやという効果音がつきそうなほど、総悟は寝入っていた。そっと髪の毛をすくってみる。サラサラ、綺麗に土方の指と指の間を通り抜けた。
「(やべ・・・)」
喉の奥が何かを欲しがりそれは唾となり胃へ落ちる。はぁ、と土方は熱い息を吐き出した。我慢できず、総悟の首元に口をやる。
べろ、と舐めてみた。
「はぁ、」
んっと総悟がわずかに反応し土方は視界が眩む。その白く細い首筋に牙を突き立てたい。
本当は、病弱な人間の血など美味しいはずがないのだ。
健康的で日の光を浴びて生きている人間の方が美味に決まっている。それなのに、土方は総悟の血が欲しくてたまらなかった。
好きだからだ。
愛しい人の生き血など、最高珍味に値する。
「ひん、ひじか、土方さん・・・?」
「!」
今まさに喰らい付こうとした瞬間名を呼ばれた。
土方はバッとベッドから離れる。しまった。
起きていた?
「そ、総悟、いや、これは、」
「・・・土方さん」
ドドド、と情けなくも心臓が暴れる。土方は顔を青ざめながら後ずさった。どうしようか。逃げてしまおう、か。
窓に飛び移ろうとした、その時。
「やっぱり吸血鬼だったんですねィ!?」
「・・・・・・はっ?」
総悟の口からとんでもない言葉。
ん、え、何だって!?
「えええええええ」
「はっはっは、まんまと俺の策にハマってくれましたねィ!!土方さん、のこのこ夜中に忍び込んで来てよう、わはは」
「ちょ、なんっ、」
「最初っから何か怪しいと思ってたんでぃ」
目を丸くする土方を無視し、総悟は言葉を続ける。
「だってコウモリ追いかけて二階の窓から入るとか、人間技じゃねぇだろぃ?」
「・・・・・・」
あぁ、バレてしまった。
というか土方は人間を舐めていた。なんとか誤魔化せた、と勘違いをしていた。
ちくしょう総悟演技上手すぎだろと思いながら土方は体制を整えた。逃げる準備だ。
バレた。もうここにはいられない。
「ちょ、ちょっと土方さん?暗くてあんま見えませんが、どこにも行かないでくだせぇよ?」
「・・・何でだ。正体バレたらドロンが基本だろ」
「! ちょ、待って土方さん、行かないでくだせぇ」
「・・・え」
予想外の台詞を吐かれ、土方はぽかんとなる。
吸血鬼と暗闇で二人きり。総悟は恐怖など感じないのだろうか。行かないで、と言えるのか、こいつは。
「別に、世間一般にバラそうとかそんなんじゃないですぜ。」
「・・・じゃぁ、何でだ。コウモリ見たいとか言いながら結局俺の正体確かめたかっただけだろお前」
「ち、違いまさ!」
「???」
とうとう土方は意味が分からない。
眉を寄せながら、総悟の言葉を待つ。
「正体確かめたかった、だけじゃ、ありやせん」
「え?」
「その、もしかしたら、ち、」
「ち?」
「血に飢えてるんじゃねぇかって」
ぶっと土方は吹き出した。
「な、な、何でぃ!!せっかく人が心配してやってるのに笑うとかよぅ!」
「ぶ、くく、わり、何だそれ、吸血鬼を心配してたのかよ?」
「う、うん」
困った様な顔をした総悟が見えて、土方はますます吹き出してしまう。
何だ、こいつ。怖がらず心配をしているとか。
「変な奴・・・!」
「悪かったねぃ、変な奴で。」
今度はむすっと不機嫌そうな顔をした。
同じ不機嫌顔でも、家政婦と比べてずいぶん可愛らしい態度だった。
「もう、変な奴でいいでさ。土方さん」
「ん?」
「俺の血、飲んでいいですぜ」
「―は」
土方は片手に口をやって姿勢で固まった。
何を言い出す、こいつは。
「意味分かって言ってんのか」
「うん。だって、土方さんが俺の所に来てた理由、俺の血狙ってたからでしょう」
「・・・」
「交換条件持ち出したのは俺ですが、でも、それでも律儀に頻繁に来てくれたのって、俺がターゲットだったからじゃないですか」
「何、」
「それに、・・・土方さん良い人だし。土方さんなら俺の血分けてもいいかなっ・・・て・・・」
俯きながらも総悟はそう言葉を繋げた。
土方は動けない。まさか人間の方からそう言ってくれるなど、今まで一度もなかった。
それに、総悟が言っていたことはあながち間違ってはいない。そろそろ誰かしらの家にでも忍び込み、血を頂戴するつもりでいた。
「いいのかよ」
そっと近寄り土方はそう口にする。
音も立てず近寄られたため、総悟の肩がびくり震えた。驚いた様だ。そのまま土方は総悟の耳元に口をやる。
「吸っていいの?」
「ひ、」
暗闇でもはっきり映る総悟の横顔。赤く染まり肩が上がっていた。
「ねぇ、」
「は、はい・・・」
よく確認をし総悟からの承諾を得る。
はいと返事をした。もう逃げられねェよ、総悟?
「っあ、う」
べろり首筋をなぞるように舌を動かしてみた。ぶるぶる震え、総悟は目を瞑った。
「あ、あの、」
「ん?」
「俺なんかの血、おいしくないかも、ですが、その、よろしくお願いします」
「ふ、美味ェに決まってる」
「・・・?病弱なのに?」
「好きな奴の血だからな」
「!」
つぷ、と歯を立てた。
丁度大量の血液が流れている所へ牙を刺す。溢れる。口の中に広がった。甘い。
やはり相手を想う気持ちの分、味は断然美味しくなる。
「ふぁ、」
「、じゅ、」
見ると総悟の手が震えていた。少々かわいそうに思い、土方はその手をぎゅっと握る。
「ひん、」
総悟の手はやけに小さく、土方の手にすっぽり収まった。
「い、ぁ、」
「んぁ、おしまい」
最後に突き立てた個所を舐め、土方は離れた。タイミングを計らえば、口を離しても血は流れないのだ。首筋の穴はしばらくすると消えるだろう。明日の朝は無理かもしれないが。
「ひぃ、ん」
「総悟?」
まだぷるぷる震えている総悟を不安に思い、土方は頭を撫でてやった。身体に負担がかかってしまっただろうか。よく考えたら、病弱な人間から血を頂くなど何を考えているのだろう。貧血にでもなったりしたら・・・!
「ちょ、大丈夫か、総悟!」
「ふぁあ、大丈夫、れさ」
「呂律回ってねェ・・・ごめんな」
「いえ、その、」
「ん?」
言いにくそうに総悟が口ごもる。土方は先を促すように頭を撫でた。
「な、何かすげぇ不思議体験・・・でした。痛くてたまんねんですけど、・・・何か気持ちかった、です」
「・・・」
土方はくらり、後ろへひっくりかえりそうになった。
真っ赤な顔で、涙目でそう言うもんだから・・・!
くらくら何とか耐えていると、総悟が思い出した様にあっと声を上げた。
「あ、あ!そうだ、土方さん!おれ、おれも、!」
「ん、あぁ?何だ」
「俺も、土方さん好き、ですぜ!」
「!!!?」
吸血鬼なのに怖がらず。
血を吸ってもいいとか抜かし。
その上好きだと。
「な、な、な、!」
「えへへ、嬉しいでさぁ」
「そ、総悟!?」
「痛くて、怖かったですけど、でも何か気持ち良かったです。また吸ってくだせぇ」
「、」
「好きでさー」
「てめェ・・・!」
わなわな土方の両手が震えた。もう我慢ならんとでも言うようにその手は総悟の両肩へ。
思い切り押し倒して唇同士をくっつけた。
「ん、ん、」
「総悟、好きだ」
「んぁ、へへ、うん俺も好きでさ」
「愛してる」
そう言うと総悟が驚いた様に目を丸くして。
顔を真っ赤にし染め照れくさそうに微笑んだ。
もう一度唇を寄せる。心地良い。
バサバサと羽ばたく音が聞こえ、土方は目を瞑る。
いつの間にか土方のコートからコウモリが抜け出し、部屋のシャンデリア付近を飛び回っていた。
庭からも音が聞こえる。
噴水が綺麗に弧を描き、二人を祝福する様に月光に輝いた。
***
ゆら様リクエスト、『吸血鬼土方と病弱沖田で血を吸う筈が沖田に好意をもってしまった吸血鬼のお話』でした!す、すみません・・・あまりリクエストに沿っていない様な内容になってしまいました・・・本当に申し訳ございません。吸血シーンが書きたくてたまらなくなってしまい、入れてしまいました><少々グロですみません(と言ってもそんなないですが・・・)
初吸血シーンですが、すっごく楽しかったです!
ではでは、ゆら様リクエストありがとうございました!
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