コレの続きです。
2ページあります。





咳き込んだ。


赤かった。






過去怖いよ






「・・・っだ・・・っ!!」


総悟は勢いよく飛び起きた。
自分の寝ていた布団が見える。ばさり浮いて重力そのままに、ベッドから少しはみ出て落ちた。

息は止まらなかった。
ぜぇぜぇ苦しく空気を吐き出し、汗びっしょりな額を手の甲で拭った。


「はぁ、は、」


だんだん落ち着いてきて、辺りを見渡す。
何でもない、高校生の自室だった。茶色いクローゼット、自分の机、少し目を逸らすと窓が見えた。もう明るい。窓際の木が揺れ部屋全体の影が動く。

よかった、未来、だ。

総悟はふーっと息をついた。
嫌な夢を見た。大昔の自分だ。好いた人が結婚をしてしまい、最後には重い病気で亡くなった、哀れな自分。


総悟には昔から前世の記憶があった。生まれ変わりという奴だ。物心付いた頃から、世界は見覚えのある人で溢れていた。


ねぇ、お母さん、おれ、しってる。あの人、はらださんだよ。
何を言っているの、そうちゃん。あの人は、前田さんよ。原田さんじゃないわ。そうちゃんは初めてお会いする方でしょう?

信じてもらえない。確かにあの人を見たことがあるのに。過去に、喋ったことすらあったのに・・・。
小さい頃は、それがどうしようもなく恐ろしかった。

今はもう、慣れてしまったが。


少し怖くなり、自分の指を舐めてみる。そして確認。
・・・よかった、普通の唾液だ。血など少しも付いていない。

「あーっ」

じたばたしてみる。何の意味もないその行動。しかし何故か居てもたってもいられなかった。咳などめったにしないのに、不安になる自分が嫌だ。怖い。
過去が怖い。

ガチャリ。


「総悟?」

「ひっ・・・兄ちゃん!」


何か音がしたかと思うと、ドアからひょこりと顔が覗いた。
自分とは対照的な黒い髪、鋭い眼、ごつごつとした掌をドアに当て、こちらを見つめる。

兄だった。

・・・兄は100年前に失恋をした相手、結婚をしてしまった、土方によく似ている。
今でも思わず間違え名前を読んでしまいそうになる。もう土方でもない、自分の血の繋がった兄なのに。

突然顔を覗かせた兄を見、総悟はいけない感情に襲われる。ぎゅっと胸が締め付けられ、とたんに身体全体の血の流れが勢いを増す。


総悟は今でも恋をしていた。
いけないことは分かっていても、過去を埋めるように恋愛をし続けていた。実の、兄に。


「どうしたんでぃ、兄ちゃん。今日は泣いてませんぜ」

「うん、でも何かバタバタ聞こえたから」


兄、十四郎は朝になるとよく総悟の部屋を覗き込む。昔からよく悪夢にうなされる総悟が心配らしい。今日だって、隣の弟の部屋から何か聞こえて来たという。
そんな些細なことも嬉しくて、総悟はいつも兄を部屋へ招き入れる。ヨコシマな想いも混じって。

「バタバタ、聞こえました、かぃ、」

「・・・泣いてないけど夢見たろ」

「・・・あは、は」

「ったく、抱え込むなよ」

やれやれ、といった様に困った顔をして、十四郎な総悟の頭を撫でた。すると総悟の胸はどうしようもなく苦しくなる。ああ、兄が、十四郎が、触ってくれている。震えそうなくらいに嬉しいのだ。そっと視線を下に向けた。



するとフラッシュバックした。




「っ!!」

「総悟!?」

血。
赤く滴るのだ。口元から。
ひゅぅひゅぅと嫌な音が喉から溢れ、ぼたぼた涎のように赤く流れる。
苦しい、苦しくて堪らない。
真っ白い布団に鮮血、鮮血、
ぐるぐる思考が回って
とたんにひどく情けなくなる。

こんな病気にかかって、まで、結婚したあなたを見つめ続ける 自分は何なんだろう?

切なくて


悲しくて。


「総悟!!」

「あっ・・・!」

我に返り総悟は目を見開いた。
十四郎に抱きついていた。・・・今何が起こった?

「話せ、何だ、どうした!?」

「ひ、ひじ、」

「ん、ゆっくり」

「っ、にいちゃん、おれ、」

「苦しいなら話せ!もう黙ってられねェ」

「!」


「いつまでも我慢できるかよ!言え!総悟!」


「っ、」

ぼろりと涙がこぼれた。
十四郎が真剣な顔で叫ぶ。もう我慢はできないと。今まで何も言わずに頭を撫でてきた。けれどもう、限界だと。
十四郎の、大きな両手で顔を挟まれ総悟はたまらない。言ってしまおうか、言ってしまおうか、


「昔の、夢を見たんでさ」


「うん」

「おれ、昔、血を吐いて!それで、しんで、」

「うん」

「怖いよ・・・!」

総悟は必死に土方にしがみつく。
怖い。
過去が怖い、未来が怖い。
またあのようになってしまうんじゃないだろうか、また同じ道を歩んでしまうんじゃないだろうか、
また、叶わぬ恋を、してしまって、自分は。

「またっ・・・悲しいまま死んでしまいそうなんでさぁっ・・・!」

「総悟・・・」

そうだ。ずっと不安だった。
実は、実は、叶わないと諦めかけている自分がいるんだ。前の自分と同じ様に・・・!
そう兄に叫んだ。涙は止まらない。

「何がだ・・・?何が叶わない?総悟、何を抱えてる・・・?」

「兄ちゃん、兄ちゃん、」

ぎゅっと子供のように十四郎にしがみつきわんわん泣く。十四郎も今まで黙っていた分次々と疑問を投げかける。これ以上は言わない方がいいとか、そういう考えも無くなっているのだろう。あまりに、必死で。

「兄ちゃん、」

移る。
兄の必死な思いが総悟に移る。
必死になって返してしまう。
叶わないそれを口にするなど、したくなかったのに、

あまりにあなたが問いかけるから。

土方さん。



「好き、でさ・・・!」



目を丸くする兄が見えた。
両手で包まれ総悟は涙を流しながら想いを告げた。
あまりに必死で、混乱をしてしまって、飛び出てしまった。

好きだ。

「好き」

土方さん。

「好き、」

兄が、

「好きぃ・・・!」

十四郎が。



優しいあなたが好きだ。
仲間の怪我を直そうと、夜中まで薬を作っていた。
子供が道路で転んでしまうと、誰よりも先に駆けつけるあなたが好きだ。

厳しいあなたが好きだ。
剣の稽古に、子供だからといって手を抜かず教えてくれた。
勉強があまり得意でない自分に、納得するまで教えてくれるあなたが好きだ。

笑顔のあなたが大好きだ。
今も昔も、 変わらぬ笑顔。


「愛してます」


一度飛び出た想いは止まらない。せき止めていた水が、一気に溢れ出るように。


「・・・、ふ、き、気持ち悪いでしょう、でも、本当に、好きなんでさ、おれ、おれ、ずっと、ずっと、昔から、」

「・・・」

「もう、誤魔化せません、ねぃ、ただの好きじゃないんです」

「、そ、」

「愛して、っ、・・・!」

それ以上言葉にならなかった。

信じられない、といった目でこちらを見る十四郎。それが辛い。まるで拒絶されているようではないか。
・・・拒絶されているようでは、ないか。





 


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