コレの続きです。
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咳き込んだ。
赤かった。
過去怖いよ
「・・・っだ・・・っ!!」
総悟は勢いよく飛び起きた。
自分の寝ていた布団が見える。ばさり浮いて重力そのままに、ベッドから少しはみ出て落ちた。
息は止まらなかった。
ぜぇぜぇ苦しく空気を吐き出し、汗びっしょりな額を手の甲で拭った。
「はぁ、は、」
だんだん落ち着いてきて、辺りを見渡す。
何でもない、高校生の自室だった。茶色いクローゼット、自分の机、少し目を逸らすと窓が見えた。もう明るい。窓際の木が揺れ部屋全体の影が動く。
よかった、未来、だ。
総悟はふーっと息をついた。
嫌な夢を見た。大昔の自分だ。好いた人が結婚をしてしまい、最後には重い病気で亡くなった、哀れな自分。
総悟には昔から前世の記憶があった。生まれ変わりという奴だ。物心付いた頃から、世界は見覚えのある人で溢れていた。
ねぇ、お母さん、おれ、しってる。あの人、はらださんだよ。
何を言っているの、そうちゃん。あの人は、前田さんよ。原田さんじゃないわ。そうちゃんは初めてお会いする方でしょう?
信じてもらえない。確かにあの人を見たことがあるのに。過去に、喋ったことすらあったのに・・・。
小さい頃は、それがどうしようもなく恐ろしかった。
今はもう、慣れてしまったが。
少し怖くなり、自分の指を舐めてみる。そして確認。
・・・よかった、普通の唾液だ。血など少しも付いていない。
「あーっ」
じたばたしてみる。何の意味もないその行動。しかし何故か居てもたってもいられなかった。咳などめったにしないのに、不安になる自分が嫌だ。怖い。
過去が怖い。
ガチャリ。
「総悟?」
「ひっ・・・兄ちゃん!」
何か音がしたかと思うと、ドアからひょこりと顔が覗いた。
自分とは対照的な黒い髪、鋭い眼、ごつごつとした掌をドアに当て、こちらを見つめる。
兄だった。
・・・兄は100年前に失恋をした相手、結婚をしてしまった、土方によく似ている。
今でも思わず間違え名前を読んでしまいそうになる。もう土方でもない、自分の血の繋がった兄なのに。
突然顔を覗かせた兄を見、総悟はいけない感情に襲われる。ぎゅっと胸が締め付けられ、とたんに身体全体の血の流れが勢いを増す。
総悟は今でも恋をしていた。
いけないことは分かっていても、過去を埋めるように恋愛をし続けていた。実の、兄に。
「どうしたんでぃ、兄ちゃん。今日は泣いてませんぜ」
「うん、でも何かバタバタ聞こえたから」
兄、十四郎は朝になるとよく総悟の部屋を覗き込む。昔からよく悪夢にうなされる総悟が心配らしい。今日だって、隣の弟の部屋から何か聞こえて来たという。
そんな些細なことも嬉しくて、総悟はいつも兄を部屋へ招き入れる。ヨコシマな想いも混じって。
「バタバタ、聞こえました、かぃ、」
「・・・泣いてないけど夢見たろ」
「・・・あは、は」
「ったく、抱え込むなよ」
やれやれ、といった様に困った顔をして、十四郎な総悟の頭を撫でた。すると総悟の胸はどうしようもなく苦しくなる。ああ、兄が、十四郎が、触ってくれている。震えそうなくらいに嬉しいのだ。そっと視線を下に向けた。
するとフラッシュバックした。
「っ!!」
「総悟!?」
血。
赤く滴るのだ。口元から。
ひゅぅひゅぅと嫌な音が喉から溢れ、ぼたぼた涎のように赤く流れる。
苦しい、苦しくて堪らない。
真っ白い布団に鮮血、鮮血、
ぐるぐる思考が回って
とたんにひどく情けなくなる。
こんな病気にかかって、まで、結婚したあなたを見つめ続ける 自分は何なんだろう?
切なくて
悲しくて。
「総悟!!」
「あっ・・・!」
我に返り総悟は目を見開いた。
十四郎に抱きついていた。・・・今何が起こった?
「話せ、何だ、どうした!?」
「ひ、ひじ、」
「ん、ゆっくり」
「っ、にいちゃん、おれ、」
「苦しいなら話せ!もう黙ってられねェ」
「!」
「いつまでも我慢できるかよ!言え!総悟!」
「っ、」
ぼろりと涙がこぼれた。
十四郎が真剣な顔で叫ぶ。もう我慢はできないと。今まで何も言わずに頭を撫でてきた。けれどもう、限界だと。
十四郎の、大きな両手で顔を挟まれ総悟はたまらない。言ってしまおうか、言ってしまおうか、
「昔の、夢を見たんでさ」
「うん」
「おれ、昔、血を吐いて!それで、しんで、」
「うん」
「怖いよ・・・!」
総悟は必死に土方にしがみつく。
怖い。
過去が怖い、未来が怖い。
またあのようになってしまうんじゃないだろうか、また同じ道を歩んでしまうんじゃないだろうか、
また、叶わぬ恋を、してしまって、自分は。
「またっ・・・悲しいまま死んでしまいそうなんでさぁっ・・・!」
「総悟・・・」
そうだ。ずっと不安だった。
実は、実は、叶わないと諦めかけている自分がいるんだ。前の自分と同じ様に・・・!
そう兄に叫んだ。涙は止まらない。
「何がだ・・・?何が叶わない?総悟、何を抱えてる・・・?」
「兄ちゃん、兄ちゃん、」
ぎゅっと子供のように十四郎にしがみつきわんわん泣く。十四郎も今まで黙っていた分次々と疑問を投げかける。これ以上は言わない方がいいとか、そういう考えも無くなっているのだろう。あまりに、必死で。
「兄ちゃん、」
移る。
兄の必死な思いが総悟に移る。
必死になって返してしまう。
叶わないそれを口にするなど、したくなかったのに、
あまりにあなたが問いかけるから。
土方さん。
「好き、でさ・・・!」
目を丸くする兄が見えた。
両手で包まれ総悟は涙を流しながら想いを告げた。
あまりに必死で、混乱をしてしまって、飛び出てしまった。
好きだ。
「好き」
土方さん。
「好き、」
兄が、
「好きぃ・・・!」
十四郎が。
優しいあなたが好きだ。
仲間の怪我を直そうと、夜中まで薬を作っていた。
子供が道路で転んでしまうと、誰よりも先に駆けつけるあなたが好きだ。
厳しいあなたが好きだ。
剣の稽古に、子供だからといって手を抜かず教えてくれた。
勉強があまり得意でない自分に、納得するまで教えてくれるあなたが好きだ。
笑顔のあなたが大好きだ。
今も昔も、 変わらぬ笑顔。
「愛してます」
一度飛び出た想いは止まらない。せき止めていた水が、一気に溢れ出るように。
「・・・、ふ、き、気持ち悪いでしょう、でも、本当に、好きなんでさ、おれ、おれ、ずっと、ずっと、昔から、」
「・・・」
「もう、誤魔化せません、ねぃ、ただの好きじゃないんです」
「、そ、」
「愛して、っ、・・・!」
それ以上言葉にならなかった。
信じられない、といった目でこちらを見る十四郎。それが辛い。まるで拒絶されているようではないか。
・・・拒絶されているようでは、ないか。
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