「はぁあああ・・・」


「ん?どしたトシ」


「近藤さん・・・」


「ん?」


「俺どうしたらいいと思う・・・」


「は?」






ガーデン・ガーデン







また出直します、と伝え沖田のマンションを去った5時間後、土方は本社でぐたり項垂れていた。
出直します、と言ったはいいが今日荷物を届ける気にはならなかった。あんな現場を目撃してしまったのだ。もしかしたらまだ恋人がいるかもしれない。その場に二度訪れるのはあまりに酷なことだった。客がいるのが分かっていて、届けないなど配達員失格だが、どうしても足が動かない。
駄目な奴だ、と土方は自分を責める。

そんな気持ちも相まって、前に近藤に相談事をしたロッカー室、備え付けのベンチに座り大きくため息。それを見て近藤は目を丸くさせた。

「と、トシー?何だ何だ前より深刻そうだな・・・?」

「はぁ、はい」

「溜息すると幸せが逃げていくぞー!」

わははと笑い近藤は土方を励ます。それを見て土方も同じように少し困った顔で微笑んでくれる・・・いつもなら。

「はぁ・・・」

「お、おい」

思いの外かなり落ち込んでいるらしく、近藤は笑みを引っ込めた。向こうが真剣なら、こっちも真剣でいかないと。ちゃかしている場合ではない。

「どうした。話してみろ」

「・・・、前に、」

「うん」

「好きなことにも手が付けられないほど、気になる奴がいるって言ったよな、俺」

「言ったな」

「・・・そいつに彼氏がいた」

「ええっ!」

自分のことのように驚く近藤。それを見て土方は少しだけ笑顔を取り戻す。
痛々しい笑みのまま、こう呟いた。


「ショックだったよ」


「トシ・・・」

近藤は思い切ったように口を開いた。そんなに、落ち込むほど、ショックなほどだったら、だったら、もしかして。


「自覚したか」

「・・・うん」

「分かったんだな」




「・・・うん、好きだよ」




目を細め、土方が小さく愛の言葉を口にした。

はっきり自覚をしてしまった。あいつは自分ではない他の誰の物なのだ。それを考えると嫌で嫌でたまらない。自分だけの物にしたい。今すぐにでも、恋人の間に割って入ってやりたい。

「・・・できねェけどな」

「・・・」

大失恋中の彼に近藤は目を伏せた。そして言うか迷っていたことを結局口にする。先ほどから、思っていたことを。


「諦めるのか」

「え?」

土方の隣に座り力強くそう言った。土方に視線を向けず、ただ真正面を見て近藤は話を続ける。

「何だ、トシらしくないじゃないか。お前は欲しいもんだったら何でも手に入れたいタイプだろう」

「・・・」

「相手の幸せのために身を引く?そうか。そんな余裕があるのか。お前の今の思いは」

「違、」

「最初から諦めていた恋ならなァ、そうやって身を引く道だってあるだろう。だがお前は今自覚したばかりだ。これからどう進むかはお前次第なんだぞ?」

「!」

「もう一度言う。お前の想いは諦めるほど余裕があるのか」


そうだ。

好きで好きで堪らなかったら諦めるということさえ頭に浮かばないはずだ。残念ながら今自覚したばかりの恋は諦める道を見つけてしまった。
けれど今はどうだ。
ドクドクと激しくなる胸の鼓動に土方は戸惑う。戸惑いながらも、確かに沖田のことを考えていた。

少し童顔で、それでもしっかりしていて、ちゃんと大人で、少し無邪気で可愛い、ちゃんと泣くことを知っている、
慌てたり照れたりしたら必ず視線を下に向けるとか、料理のレパートリーが多くて、必ず出す料理は美味だったり、ちゃんと土方のことを考えて時間を気にしてくれたり、堂々とした態度を取ることもあるが、華奢で抱き締めたら壊れてしまいそうな、消えそうな細い文字を書く、そんな些細なことさえ愛しい、

沖田のことを上げるとキリがない。・・・好きだ。

好きだ。好きだ。心が叫ぶ。愛している。


「近藤さん」

「ん」

「やべぇ、もうダメだわ俺」

「ん!?」

「もう戻れねェな。諦めきれねェよ」

「!」

「サンキュ。目が覚めたわ。うだうだ言ってる暇があったらチャンス狙うべきだよな」

「トシ!」


項垂れた姿勢のまま近藤を見上げ土方は笑った。ニヤリ、そう効果音が付きそうに。
近藤は嬉しげに目を細めた。ああ良かった、いつものトシに戻った、と。

「当たって砕けろもいいと思うぞ!」

「いや砕けるつもりは今んとこねェけど」

「おおっ、その意気だ!」

二人はすっくと立ち上がり帰宅の準備を始める。外はとっぷり暗くなっていて、窓から見える街頭に虫が数匹群がっていた。

「じゃぁな、トシ。立ち直ってよかったよ」

「サンキュ。感謝してもし足りねェ」

「気にするな!」


ニカッと笑った高校時代、元先輩に軽く手を振り暗い道を歩いていく。後ろから、さっき言ったこと忘れるなよー!と大きく叫ぶ声が聞こえた。近所迷惑だよ、と土方は笑いながら返事の変わりに片手を上げた。本当に良い人だ、近藤は。







しばらく歩いているとやはり沖田のことを考えてしまう。昼の出来事がフラッシュバックでよみがえってくる・・・。

たしかにショックだった。
しかも沖田の相手は男だ。男がいける口なのか・・・と先ほどまで重い息を吐き出していた。
確かに最初会った時綺麗な顔立ちをしていると思った。そういう類の人は、意外にも美形が多いらしい。そう言われてみれば、薄い茶髪がそうさせているのかもしれないが、沖田は儚げな外見だ。そっちの人にとってたまらない存在かもしれない。

「(まぁこの俺が惚れるくらいだしな)」

ぼんやり星空を眺め土方は一人考える。

だが逆に考えるとチャンスではないか。
沖田はもともとそういう類。ということは、土方が恋人になることも不可能ではない。


「(・・・クソ、彼氏がいて俺にチャンスが回ってくるとはな)」


皮肉だ。皮肉にもほどがある。

だがそれでも諦めるつもりはなかった。


近藤に言われはっきり自覚してしまった。諦められるほどこの恋は軽いものではない、と。



「ここからだな」


自然と笑みが浮かんでいた。










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