「ではありがとうございました」
「待ってくだせぇ、今日は自信作ですから!」
「・・・・・・うん」
「えっ?」
ガーデン・ガーデン
嬉しい。そりゃ嬉しい。けれど、何だ、この変化は!?
沖田の脳内は、そればかりがぐるぐる渦巻いていた。
丼ぶりを運びながら沖田は冷や汗。いったい今日はどうしたというのだ。
「お待たせしやした、今日は牛丼ですぜ」
「おお、助かる」
「ごはん多めにしときやしたから」
「さんきゅ。やっぱこう、量がないとな」
「・・・。」
何々だ、この変化は!
もう一度そう心の中で沖田は叫び、目の前の土方を見た。
割り箸を使いこぼさず丁寧に食べていく。熱いのか、少しふう、と息を吹きかけ冷ましながら。
そう、いつもだったら、申し訳なさそうに、居心地悪そうに沖田が用意した席に座り黙って食べていたのに。今日は・・・
「(さんきゅって、さんきゅって!)」
悪い、と言うのがいつもなのに、今回はお礼を言ってきた。丼ぶりを受け取る時も、心なしか嬉しそうに見える。
それよりも一番の驚きは玄関先での出来事だ。いつも沖田が図々しいくらいに無理やりひっぱって家の中に土方を迎え入れていたのに、今日は、素直に上がって来てくれた。
どうたんだろう。
前に結構な間配達を頼んでいなかったからだろうか。彼は心配して沖田のマンションまで来てくれた。しかも休みの日に。
それが決定打だった・・・?
「いやまさか!」
「ん?」
「うわっいや、何でもないでさぁ!」
「何だそれ」
変なの、と土方がゆるく微笑むのでとたんに沖田の心臓は締め付けられてしまう。
思わず口に出してしまった。恥ずかしい。
・・・もういっそのこと、聞いてみようか。
「・・・・・・土方さん」
「ん?」
「きょ、今日はやけに素直です、ね?」
「・・・。」
視線を自分の牛丼に写し、おそるおそる聞いてみた。
すると土方はだんまりを決め込む。不思議に思った沖田は、そろり、目の前の土方を見てみる
すると。
「・・・、」
土方はきょろ、と目を動かし恥ずかしそうに飯を口に運んでいた。
え、何その反応。
沖田の心臓はもう耐えられなかった。どくっと一際大きく跳ねたかと思うと、そのまま口から飛び出そうなほどに跳ね続ける。ちらちら土方を見てみても、やっぱり、幻覚じゃない。確かに土方は照れている。証拠にほんのり顔が赤くなっていた。
「・・・悪いかよ」
「えっ」
「断り続けていた奴が、いきなり一緒に食いたいなんて言い出したら変か」
「っ・・・」
いいえめっそうもございません。むしろ大歓迎です、土方さんなら!
そう沖田は心の中で呟きめまいがしそうな感覚に襲われた。
むすうと機嫌悪そうに、すねたように昼飯を食べる土方が愛しくてたまらない。可愛いとさえ思ってしまう。
「お、おれは、いつも土方さんが昼前に来るから、一緒に食べれて嬉しい、ですけど」
「!」
「変なんて言う訳ないじゃないですかぃ、嬉しくて、たまんないんでぃ」
「総悟、」
できるだけ一緒にいたいのだ。
土方と、同じ空間同じ場所で過ごしたい、そう思っている沖田にとっては、この昼食はとても大事な時間だった。
土方も、一緒に昼食を取りたいと思ってくれているのなら、これほど嬉しいことはないだろう。
言った後しまった素直になりすぎた、と思ったが無駄な心配だったらしい。
土方が嬉しそうに微笑んでいたのだから。
「っ、っ、」
「じゃ、今日は配達多いから、この辺で」
「えっ」
配達多くて忙しい今日に、一緒に食べたいと思ってくれたの!?
都合の良い解釈だとしてもいい、沖田の胸は驚きと喜びでいっぱいになった。
「玄関まで送りまさ・・・!」
「いいのに」
「そういうわけにはいきやせん」
二人で沖田のマンションの玄関まで歩いていく。
もう帰るのか、と寂しくなるがそれは沖田のわがままだ。その気持ちを無視して土方を送り出す。
「・・・総悟」
「はい?」
ドアノブに土方が手を掛けた瞬間話しかけられた。
今までこういうことはなかったので、多少とまどいながら土方に耳を傾ける。
それは予想もしない、言葉だった。
「俺、実は最近発売された、沖田爽の新刊買うの忘れてたんだよ」
「 え 」
「前に配達頼まなかっただろ 総悟」
「 」
「総悟のことが気になって」
正直その後のことは覚えていない。
じゃぁな、と言った土方に、自分はちゃんと返事を返せていただろうか。
どんな顔で、どんな風に送り出しただろうか。
頭を金槌で殴られた様だった。
沖田爽の新刊を買うのを忘れていた?
沖田総悟のことが気になって?
そればかりが頭を占める。いつの間にか作業机に座っていた。パソコンに手を伸ばして仕事の続きをする。手を動かす。頭がガンガンする。痛い。どこかでメロディが鳴り響いた。
「・・・もしもし」
『あっ沖田さん?やっと出た。次の作品の進行具合、どうですかー?』
「・・・山崎」
『はい?』
「どうしよう、書けない」
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