幼馴染、腐れ縁、同じクラス、同じ歳、




同級生。






滑り落ちてキス








「ふぁ、」

8:00。
沖田は都心と少し離れた住宅街を歩いていた。
やけに軽い鞄を片手に、人通りの少ないそこを一人で歩く。
足取りは少しだけ、重い。

大きなあくびをしながら、沖田は今の状況を整理していた。
悲しいほどに進展しない、今の状況を。

「はよ」

「っ!」

ぼぅっといつもの通学路を歩いていると、肩を叩かれ挨拶された。何も変化のない住宅街、青い空、朝日が眩しくそして君。

「朝からぼーっとしてんな、悩みか?」

「あるように見えますかねぃ」

「見えねえから疑問形なんだろ」

「土方コノヤロー」

淡々と憎まれ口を叩く。眠い朝に、いつもの迫力はない。
相変わらずの会話だった。沖田は土方と肩を並べて学校へ行く。途中で近藤や山崎と合流するのだが、それまでは二人きりだ。

触れ合えそうな距離に胸が高鳴る。
どきどきと緊張しながら、その緊張は無駄だと沖田は首を振った。
ただ、一緒に学校へ行くだけなのだ。二人きりの時間もほんのわずか。


「(しょうがないよねぃ、片思いなんだし)」


沖田は土方が好きだった。

自覚したのはつい最近だが、この胸の高鳴りは最近始まったものではない。気付けば十年もの片思いに、切なく泣いてしまったことは絶対に秘密。


青い空をバックに、朝日に輝く想い人を見つめて瞳を潤ませた。









「ああああああああ」

「そ、総悟、そんなに落ち込むなよ・・・な?」

沖田は机に突っ伏していた。両手にはテストの答案用紙。
そんな沖田を見ながら、前の席の土方は慰めるように彼の頭を撫でた。

その行動に、沖田の胸がきゅんとなったのは内緒である。

「しかしいつも平均点ギリギリはいく総悟が・・・今回はどうしたよ」

「誰のせいだと思ってんでぃ・・・」

「?」

きょとんと沖田を見る土方。そんな仕草すら愛しく見えて、自分は病気かと沖田は頭をくらくらさせた。


そんな沖田の答案用紙には赤い字で、10 と書いてあったのだ。


「新記録でぃ」

「小学校の頃、19点取ったことあったよなァ、それ以来か」

「ちょ、それいつまで覚えてんでぃ!」

「忘れるかァァ!小学生が50点以下ってなかなかねェぞ」

「もう・・・忘れてくだせぇ・・・今回のことも、うう、」


沖田は精神的に参っていた。今更気付いたこの恋心に頭を悩ませ、テストも集中して受けられなかったのだ。


点数が酷いことに落ち込んでいるのではない。自分が、ここまで土方に振り回されている事実に恥ずかしくなったのだ。

「総悟?」

「!」

珍しく落ち込んでいる沖田に土方は優しく囁いた。頭を撫でながら、気にするなと口にする。

「今日の帰り、近藤さんと山崎は係の集まりで一緒に帰れないんだとよ。俺が帰り、慰めてやるから元気出せ。お前らしくねェよ」

「・・・え。二人きりってことですかぃ?」

「ん?まあな」


めったにない二人きりの帰り道。


嬉しくて、嬉しくて、顔に熱が集まった。

「ほ、ほんとうですかぃ!?」

「えっ、あぁ、うん?」

「や、すいやせん気にしないでくだせぇ」

「?」

思わず興奮して身を乗り出してしまった。恥ずかしい。土方が不思議そうに見ている。
でも、これは興奮せずにはいられない。

慰めてくれる?本当に?

冗談っぽく言われた台詞だが、冗談だと分かっていても、期待してしまう。

「(おおおおお俺をうんと慰めてくだせぇ・・・!ってそんなこと言えるわけがない・・・!)」


もちろん不純な意味で、だ。









悪いな総悟!
すいませんね、沖田さん。

心底申し訳なさそうな顔をした二人を見送って、沖田と土方は学校を後にする。

全然悪くない、むしろ係の集まりよもっと増えろ!なんて考えてしまう沖田だった。

「二人がいないとやっぱ、寂しいなー」

「そうですかぃ?・・・二人も悪くはないですぜ。悪くは。」

「そうか?」

悪くはない、を強調してしまった沖田。
二人きりの方が良いって言いたかったのに。
思わずかわいくない態度をとってしまい一人傷つく。
もっと素直でいたいのに、二人で嬉しいよって、言いたいのに。

「(おれのばか・・・)」

「ま、確かに悪くないよな」

「!」

沖田の意見に肯定した。それだけのことで、沖田の胸が跳ね上がる。
悪くない、本当、嬉しい。


「ひ、!土方さん、帰りに慰めてくれるって言ってなかったですっけ?」

「ん。あ、言ったな」

一人喜んでいる自分が恥ずかしくて、学校で言っていた事を実行してもらうことにする。
・・・不純な意味でなくても、土方に慰めてほしかった。

「何がいい?今からどっか寄るか?」

「えっ・・・どうしやしょう」

どこかに寄るなら、おごってくれるらしい。それはとても嬉しいのだが、けれど、今の時間帯はどこも学生で溢れ返っている時間だ。
せっかくの二人きりを、誰にも邪魔されたくはない。

「そんな気分ではないですねぃ・・・」

「じゃぁ・・・何か俺にできること。何でもやるぜ」

「えぇ!」

ぼわんといけない妄想が頭をよぎったがそれを振り払い、真面目に考えることにする。


けれど、土方にやってほしいその妄想は、やっぱり、完全には消えなくて・・・。


ぽろり、滑り落ちてしまった。



「キス、」


「あ?」



「キス、がいい・・・」




目を丸くした土方が視界にいて、あ、本気でこれは、やばいな、と、沖田は冷静に考えていた。

冷静なのは脳だけで、ばくばくと心臓の音が身体に響く。一種のトリップだ。近い心臓の音が遠くに聞こえる。どうしよう。言ってしまった。

土方さんとキスがしたい。


「あ、だめ、ですよねぃ、すみやせん、おれ、何か・・・今日おかしいみたいで、」

「総悟?」

「だめ、近付かないで、」

「総悟!」

がしりと肩を掴まれ反射的に顔を上げる。
ああしまった、こんな顔、見られたくはなかったのに。だから俯いていたのに。

沖田は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「何て顔・・・してんだよ」

「だ、て、俺に、キスなんて求められて、いや、でしょう、引きましたよ、ねぃ・・・」

目を反らして沖田は喋る。のどにつっかえるが、黙ってなんかいられない。言い訳をしていないと、駄目だ。心が、折れる。

「やめ、もう、さっきの、忘れてくだせぇ・・・」

「・・・」

土方の顔が見れなくて、潤む瞳で爪先を見た。じりじりと後ずさりをしてしまう、臆病で小さな爪先を。

「ばっか野郎・・・!」

「ぇっ!?」

「逃げんな!!」

ゴッと効果音がつきそうな声で怒鳴られた。普段から怒ることが多い土方だったが、こんなに真剣に怒りを露わにすることは珍しい。
キン、と耳鳴りさえした。

「こっち見ろ、逃げんな」


いつも見せないその表情に、目が反らせなくなる。
土方の瞳は熱く、ぎらぎら沖田を睨みつけた。

「・・・?」

それでも怖くないと思えるのは、触れている手が優しいからだろうか。

「総悟は俺をどう思ってんの。何でキスなんて言い出したんだ?理由を言え。じゃねェと一生離さねェ」

「あ、」

「言え」

一生離さない、と言ったとたんに土方の手に力が入る。本気だ、言うまで離さないつもりだ、この人は。
頑固なのは今に始まったことではない。昔からそうだった。だから分かる。どれだけ土方が真剣に、沖田の答えを聞きたいのかも。



「キスがしたいって、・・・思ったのは、おれが、おれが、土方さんと、・・・その、」

「うん。俺と?」


「こ、っ、こいびと、に、なりたいから、」


「うん」


「ひじか、さん、に、ふ、触れて、ほしいから・・・!」



包み隠さず本音を言った。好きとか、愛しているとか、そんな言葉じゃなくて、本気で心から思ったことを。

感じたまま表現する。そう、素直に。
触れて、触れて。土方さん。


「よく言えたな、総悟」

「う、いや、褒めないで、きもちわるいでしょう・・・」

「自分と同じ気持ちの奴を、気持ち悪いなんて思わねェよ」




「・・・!?」




何かとんでもない言葉が聞こえた気がした。

「は、・・・」

「総悟が言ったこと、俺も考えてた。そう思ってたから」

「えっ」

「俺も総悟の恋人になりてェよ?」

「!?!?!?、!?」


ぽかりと口を開けて沖田は土方を見た。

何だって?何だって?


「そんな口開けたらキスできねェじゃねェか。開けるならもちっと薄くだな、」

「え、えっ、!?土方さん!?」

「何だよ」

「おれ、と、恋人になりてぇの!?」

「・・・」


ぼふりと顔を真っ赤にする土方。


「!!!」

「んだよ、悪りィかよ。これでも昔っから総悟に惚れてたんだからな」

「初耳でさぁ・・・!?」

「はぁ、もう、後からうんと聞かせてやるよ、俺がどんだけ総悟を好きだったか!」

「えっ」

「それより今は、キスだろ?」


掴んでいた手を離し、沖田の頬に移動させる。
ぐっと顔を近付け、土方は甘く囁いた。

「慰めるって言ったからな」

「!」

「したいんだろ?」

「・・・・・・」


後から思い出すと恥ずかしくて死にそうになるのだが、沖田はコクリと頷いた。小さく、したい、と呟きながら。


「ん、」

ゆっくり土方の顔が近付き唇が触れる。
ここは住宅街だとか、夕方で、下手をしたら小学生が家々に帰って来る頃だとか、そんな簡単な考えが吹き飛ぶ。

触れ合う事実がただただ嬉しい。

これは土方なのだ。

「ふ、あぅ」

「こっち」

ぐいと引かれて電信柱の影に寄る。
気休めだが仕方が無い。隠れる場所が無かった。

「口開けてみ?」

「んぁ・・・」

「ちゅ、」

「ん、ん」

ゆるりと土方の熱い舌が割り込んできて、微妙な動きで口内を刺激する。とろとろに、蕩け、る。

「ふぁあ・・・」

「は、満足したか?」


ぼぅっとした瞳で土方を見つめ何も答えられない。
満足した・・・と言ったら嘘になるし、満足していないって言ったら誘っているみたいだし。

「・・・、土方さんは?」

「ん?」

「もっとしたい?」

「・・・、!え、」

ぎくりと肩を強張らせた。
そんな反応を見て、沖田は照れて照れて、少しだけ視線を反らす。

「くそ、今から俺の家に来い総悟・・・!」

「ええっ!?」


「俺もお前も満足できるようにしてやるよ・・・」


土方の瞳が獣のそれに変わった。

どきどき高鳴る心臓をどうにかしてほしい。これでは、もう溺れて身動きが取れないではないか。


「はい・・・」


身動き取れず沖田は、頷いて土方の手に引かれた。
歩く足は早くて、こんなに早歩きで帰ったの、初めて。



確かに繋がれた手が暖かくて、熱くて、沖田は嬉しげに微笑んだ。






***
あゆさま、フリリクありがとうございました!
『土沖で3Z馴れ初め話』です。
た、楽しかったです・・・!(笑
やっぱり馴れ初めはいいですよね・・・!
ただの幼馴染から進展する所は、本当に書いていて楽しかったです!
3Zが生かせているか不安ですが・・・、フリリクありがとうございました!お気に召さなかったら、書き直し可能です・・・!


あきゅろす。
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