ああ先生、



「サイン コサインを間違えんなよ」


こっち見て、


「よく間違えるからな、面積はサインだぞ」


ちょっとでも、いいから、


「公式覚えてりゃテストできるからな、頑張れよ」




その目が俺に向けられたなら!




目があった気がした。

とたんに胸が跳ねあがる。それは今に始まったことではない。数ヶ月前だ。初めてこの授業を受けたときにそれは始まった。

そのキリリとした瞳を見ただけで左胸が跳ね上がる。初めは何が何だか分らなかった。だがしかし、何度もそれが起こるというのなら、答えは一つしかないだろう。


「公式覚えてりゃテストできるからな、頑張れよ」


頑張れと言った後に不敵な笑みを浮かべる。土方のそんな表情に、沖田はほとほと困っていた。
何せときめく胸の鼓動が止まらないのだ。
今は授業中で、真剣に取り組まないとテストが大変なことになってしまう。それなのに、・・・土方に集中してしまう。話の内容よりも土方の仕草、表情に目が行ってしまうのだ。

沖田は数学の教師、土方に片思いしていた。


「あとは表を覚えろよ、次、小テストするからな」

小テストという言葉にクラスがざわめく。全問正解者以外は居残りな、というセリフまで残したものだから、ええーっと不満の声が教室に充満する。

やべぇなと沖田は顔をゆがめた。
沖田は暗記系が一番苦手なのだ。小テストでも良い点数を取って土方に気に入られたい・・・。

頑張らなければと沖田は机の下、拳を握りしめた。




。。。




「・・・・・・。」

沖田の手には返してもらった小テスト。
そして放課後。夕焼けの教室に二人、教師と生徒の影。
そう、沖田は、


「まさか60°と150°の位置を間違えられるとは思わなかったよ・・・」


居残り、させられていた。


「うう、」

最悪、最悪でぃ・・・!と沖田は顔を歪ませる。土方には良い所しか見せたくなかったのに、それなのに、こんなまぬけな間違いを侵してしまうとは・・・!

沖田は図形の表を一部、逆に書いてしまったのだ。

もう下を向くしか手段はない。しかも小テストで満点を取れなかった者が沖田以外いなかったというのも情けない。
じわじわと浮かんできた涙をなんとか止めた。

「まぁ、そんな大きな間違いじゃなくて安心したけどよ。ついでだから分からんとこ教えてやる」

そんな沖田を見て土方は優しい言葉を投げかける。丁度テスト前だ。ほぼケアレスミスな沖田に、これ以上表を覚えろとは言えなかった。

「へ、へぃ、がんばって良い点取るんでぃ・・・!」

こうなりゃ挽回するしかない。
そう沖田は両手をぐっと握りしめる。勉強はあまり得意ではない沖田。だが、土方の授業の数学なら頑張れる気がした。

「おぅ。その意気だぞ」

熱心な沖田に土方は微笑む。やはり生徒がやる気になってくれれば教師は嬉しい。
なでなでと沖田の頭を撫でてやった。

「・・・!」

わわっと沖田は慌てる。普段触れられる機会がない土方に触ってもらっている。そんな状況にどきどきと心臓は激しくなった。照れながらも土方を見上げる。

「先生?」

「あ、わり、子供扱いしてる訳じゃねェからな?」

勘違いしたのか土方がぱっと手を離す。
ああ、もっと触っていてほしかったのに、と無意識に沖田は考え、ますます顔を赤くした。なんて浅ましい願い、別に自分だからしたという訳でもあるまいし!

そこまで思考がいくと突然悲しくなった。


そっか・・・別に、俺じゃない人が居残りしても頭撫でてたかもしれないしねぃ。


頑張る生徒に頭を撫でる土方。

そう、自分は生徒なのだ。それ以上にもなれない。そんな関係。


「ここ、お前苦手だったろ?教えてやる」

「あ、そこ、まだ微妙に分かんないです・・・」

「ここはな、」

すらすらと分かりやすい言葉で数学の公式を教えてくれる。土方は基本から応用の問題へ進む時の教え方が一番上手い。
さっきまで基本すらあやふやだった図形の問題が、沖田は簡単な応用ならできるようになっていた。

すごいと思う。
こんな短時間で頭がけして良い方ではない沖田が分かるまで教えてくれるのだ。そんな頭の良さにも引かれた。

「(うう、だめだ、どきどきしちまう。教え方上手い・・・指長い・・・)」

かっこいいよぅとしばし見とれてしまう。そんな視線に気付いたのか、土方は照れたように顔を背けた。

「お前、見過ぎ。集中しろよ・・・」

「すっ、すいやせ・・・!だって・・・」

かっこよくて・・・と呟く。
言った後しまったというように沖田は口に手を当てた。だが、もう遅い。
顔が青くなる。男子生徒にこんなこと言われて、気持ち悪がられたらどうしよう、そんな思いが胸をよぎった。

「おま、・・・」

「!?(ええっ・・・!)」


そこにあったのは完璧に引いた土方の顔・・・ではなく。


顔を赤くしうろたえた土方がそこにいた。


「!?、!?」

「そんな無意識にかっこいいとか言うなよ!恥ずいったらねェ・・・」

手の甲を口元にやり、悔しそうに顔を歪める。
そんな土方を見て今度は沖田が顔を赤くした。土方のこんな表情、初めて見たのだ。

クラスの女子に、彼女いるんですかって質問された時もこんな顔しなかったのに。


「えっ、えっ、でも、本心でさ、」

「ああもういいから!これ以上言うな!授業中も気になってたんだが、お前俺見過ぎじゃね、こっちが恥ずかしい・・・」

早口でそんなことを言い、顔がさっきよりも赤くなった。夕日じゃない、言うまでもない、・・・照れている。

「ひ、土方せんせい、俺、授業中先生を見ちゃうんでさ、気付いてるとは思わなくて・・・」

ごめんなせぇと謝る沖田。そんな沖田を見て土方は慌てる。謝らせたかった訳ではないのだ。

「あー・・・、違うから、謝んなくていいって」

「?」

「勝手にこっちが焦ってるだけ」


「?」


遠まわしなその言葉に沖田は不安気な表情を浮かべる。何、何がいいたいの?

「だから、俺はお前に振り回されてんだよ!授業中必死になってそっち見ないようにしてんの!」

人差し指が沖田の額を小突いた。
ぶわっと何かが溢れだす。そんな気がした。もしかして、もしかして、授業中に目があったのは気のせいではなかったのだろうか、そうだったら、どうしよう、・・・嬉しい。

沖田は胸を押さえる。言ってもいいだろうか、言っちゃおうか、先生。


「せんせ、好きでさぁー・・・」

「・・・」

真っ赤な顔でそう告げられて、土方は顔を押さえた。
そんなうるうるした瞳で言われても、我慢できるほど出来た人間ではない、土方は。

「・・・、し、知ってたよ・・・目線が好き好き言ってたからな」

「!!」

ぼふんと顔が熱くなった。目線で通じるほど好きだったのだ。沖田は、土方が。
なんて恥ずかしい視線を送っていたんだと今更ながらに照れてしまった。

「ま、俺もそんな沖田に引かれたんだがな」

「・・・。えっ、!」

「俺も好きだぜ?」

唇を土方の長い指でなぞられ、そのまま顔を近付けられる。恥ずかしくて、恥ずかしくて、それでも、嬉しくて。

放課後の教室に今だけは、誰も来ないで。

そう願うが土方の唇の感触が分かった瞬間、そんな思いも吹き飛んだ。


「ん、」

「・・・、ふは、顔まっか」

必死に目をつぶっているとからかうような土方の声が聞こえた。慌てて目を開けるが、それから何も考えられない。沖田はあたふたと手を空中に彷徨わせる。だいぶ混乱していた。

「ああああ、ええっ、うわあ!」

「落ち着けよ、よしよし」

また沖田の頭をなでなでする土方。そうされてやっと落ち着いてきた。まだ顔は赤いままだったが、撫で続ける土方を見上げるくらいの余裕はできた。

「・・・」

「ん?」

じっと見つめても撫でる手は止まらない。
人の頭を撫でるのが好きなのだろうかと思い沖田は首をかしげる。

「えと、その、」

「え?あ、沖田の頭撫でてみたかったんだよ」

まんまるで撫で心地よさそうで。
そう言うと目を細めて笑う。本当に、嬉しそうに笑うものだから。

「〜!」

「ん?どした」

ぽかりと土方の胸を軽く叩き、そのまま抱きしめる。もう、もう、そんな顔をされたらどんな反応すればいいか分からないでしょう!


「!」

「うーっ、先生、好きでさ・・・!」


言った後に土方がくすりと笑う。恥ずかしくなったが止められない。溢れる想いは止まらない。

「俺も」

「!!」

撫でていない方の手が背中に回されて、抱き合う形になる。どうしよう。嬉しい。
触れた大きな手が、どうしようもなく嬉しい。

ぎゅうと目をつぶり、幸せを噛み締める。



「誰か来たら、どうしような?」

「誰も来ないことを、祈るだけでさ、」

「んー、そうだな」



呑気に呟く土方をチラリと見る。そうだここは教室だった。この教室で、土方の授業を受けるのだ。

これからの授業はさらにドキドキすることになるだろう・・・。


想像し、沖田は熱い息を吐き出した。







***
優希さまリクで、『教師(→)←生徒のかわいい感じ』でした!
どうでしょう・・・かわいい感じになっているのかものすごく不安です・・・。
そして今更ですが本当にキャラ壊れすみません・・・!かわいい感じかわいい感じと思いながら書いたのですが、お気に召しますかね・・・!←
ですが教師ものすごく楽しかったです^^授業中やら総悟大変ですよね!(笑
ええと、書き直し可です!←
ではでは、フリリクありがとうございました!


あきゅろす。
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