(パロ)(歌手そご)







「あ、また歌詞書いてんのかよ」



「・・・・・・」








心の中でを唄う









顔が青くなる。
土方が急に後ろに立ったからだ。覗きこむように肩越しに見る彼は近い。近すぎて慌ててしまいそう。

「寄るなぃあっち行け」

「ひでェな。いいじゃねェか歌詞くらい見ても」

「や!恥ずかしいでさ!」

「どうせ後から聞くんだからよ」


ほんのり頬を赤く染めた沖田は土方に反抗する。

沖田は歌手だった。最近人気急上昇してオリコンでは毎回トップ。そんな彼が休日、家で歌詞を考えていた時に土方が来た。
土方は高校の時からの友人。
遊びに来た土方に適当にくつろいでいて、とお茶を出したとたんに歌詞が思いついた。

忘れてしまわないうちにメモしていたら、土方が覗きこんできたのだ。


「見せろ」

「いやぁ!わっ、本当、こんなときに背の高さを利用しないでほしいねぃ!」

「7センチの差を思い知れ」


ひょいっとメモ帳を取られて沖田は悔しがる。
そんな沖田を無視して土方はメモに視線を走らせた。そして溜め息。あ、どうしたの。

「へ、変ですかねぃ・・・?」

「え、いや、逆。違う。いいよ?」

「だって溜め息・・・」

「惚れぼれするなーって思って」


感嘆のため息だった?


「・・・っ」

それを知り嬉しくなる。同時に湧き上がるこの気持ちの正体を、沖田はすでに知っていた。

「相変わらず、すっげ恋の物語だよな・・・切なくて、甘くて、」

そして好きな人に会いたくなるような歌詞。

沖田はラブソングが得意だった。

「それをお前、そんなキレーな声で歌うんだもんなァ。ファンが増える増える」

「ぇっ・・・!俺のこえ、きれい?」

「すっげ綺麗だよ。惚れそう」

「〜!」


惚れそうという言葉にときめいた。そんな言葉、言葉、男に使う言葉じゃないでしょ。どきどきする。沖田は胸元をぎゅっと握りしめた。

「やっぱ・・・モデルとかいんの」

「ふぇ!?」

「総悟が恋してる奴、いるの」


こんなに切ない恋の歌。
甘く切なく響くその歌は、あまりにもリアル過ぎた。

「その恋している奴のことを想って、書いてるの」

「・・・」

真っ赤になった沖田を見て土方は息を吐き出した。
柄にもなく緊張している。歌にまでして全国へ、切なく響く総悟の恋を、叶えたかった。


「います・・・恋、してる」


「そ、か」


明らかに残念そうな顔をした土方。しかしそんな土方の表情の変化に沖田は気付かない。
沖田も緊張していた。
気が付くほど余裕がなかった。

「・・・そいつのこと、こんなに好きなんだな」

「う、うん」


沖田は下を向いた。世話しなく音を立てる心臓。
じわじわと涙まで浮かんでくる。
ああ、どうしよう。このまま言ってしまおうか。


今までの歌詞は、土方に向けて書いたのだと。


「歌って」

「っ!?」


「新曲。歌って」




はぁっと息を吐き出す。
信じられないくらい心臓が鳴っている。そして、顔が、すごく熱い。
土方の前で歌うのだ。土方へ向けたこのラブソングを。想いが溢れて思わず書いてしまったこの歌詞を。
好きです好きです大好きです、どうしようもなく、好きなんです。
側にいたいの、抱きしめてほしいの、キスして、ほしいの。
好きなの。
でも怖くて、いえないの。どうしよう。どうしたらいいの。たすけてください、怖いくらい好きなの。
甘く低い声で、囁いてほしい、前が見えなくなるくらい抱きしめてほしい。
欲ばかり蠢くこの心。ずるい私はいつまでもこの気持ちを、隠してる・・・。ごめんなさい気持ち悪いよね、ごめんなさい。





「そして私は、キスを、」




歌詞の途中で腕を引っ張られた。
何が起こったかわからない。脳が追いつかない。
どうして?


抱きしめられている。



土方に。




「っ、えっ・・・!?」

「ごめん」


泣くな、と土方が痛いくらい切ない表情で沖田の顔を撫でる。
今気が付いた。
―泣いていた。

「うっ、・・っく、ど、しよ、とまらな・・・」

「ごめん、ごめん、泣くな・・・。そんなに好きなんだ、そいつのこと。泣くほど・・・ごめん」


無理矢理歌わせてごめんな。

泣きながら歌う総悟が痛々しくて、たまらなくて、土方がまた抱きしめる。さっきよりもきつく、強く。
違うよ。そんなの、全然、違う。無理矢理じゃない。
思ったよりも土方の前で歌うということが切なかったんだ。
悲しかったんじゃない。届かない恋だから、想いが溢れただけなんだ。

駄目、このままくっ付いていたら、言ってしまいそう。本当に、はなして。飛び出る。言葉が。歌詞が。歌詞の一部が。



「すき、」



ほら・・・、飛び出てしまった。

顔を上げて伝えた。近い距離が愛しい。目を見つめて言う。何度でも、ああ、駄目なのに、ごめんなさい


「す、き、ひ、ひじかた、さ」

「え・・・?そ、ご?」


土方の腕が震えた。
拒絶の震えだろうと沖田が絶望した、瞬間。



唇が触れた。





「・・・、え」

「本当に・・・?俺のこと、好きなの、総悟」

その姿勢のまま、至近距離で土方が囁く。
ああ、キスされた・・・?夢にまで見ていたあなたからのキス。

ぼろぼろと流れる涙は止まらない。期待が胸いっぱいに広がった。


「う、うん・・・っ・・・!すきっ・・・!」

「嘘だろ・・・俺も、好きだった・・・っ」

もう一度口付けられて、抱きしめられる。
両想いだなんて、本当に?信じられない、沖田の涙はまだ止まらない。


「ほんとうはっ・・・!ぜんぶ、ぜんぶ、土方さんに向けた、ひっく、歌詞だった・・・!」

「−っ、そう、ご、嬉しい、」

痛いくらいに抱きしめられる。
やっと言えたその言葉。しかも、信じられないことに、土方も沖田が好きだという。
こんなに幸せなことはない。
ああ、もう、止まらない。

「んっ、」

「ちゅ、総悟、」

「んふ、」

唇を合わせる。息をしようと口を開いた瞬間、土方の熱い舌が割り込んできた。
沖田の部屋に水温が響く。くちゅくちゅと聞こえて恥ずかしくなった。
でも、嬉しい。

「もっと、もっと・・・」

「ん、総悟、かわいい」

「ふぁ、」

びくびくとあさましく震える身体が憎らしい。
素直に感じる沖田に土方も我慢ができなかった。

片思いの相手が、実は自分のことが好きだったなんて、嬉しくて嬉しくて・・・たまらない。





キスの合間に好き、好き、と呟く沖田をまた隙間がないくらい抱きしめた。












***
楽しかった・・・
歌手そご。土方へ向ける歌を、泣きながら歌う総悟を書いてみたかった・・・。満足。しかしまだ足りない。もっと総悟をときめかせてやりたい←


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