4月。


春うららかな今日は朝から生徒達がざわついていた。
高校までの道のりでも耳に入る雑音のほとんどがその話題。
甲高い女の声から低い男のクールな声、さまざまな音となって空気の中を駆け巡る。


そう、今日は新学期。
クラス替えの日だった。



「あ、Z組」



沖田はそう呟く。
黒板に張られた薄っぺらい紙、それだけでこれから一年過ごすメンバーが決まるのだ。
重要なその紙に人々は群がる。
だいぶ混雑しているその空間に居るのが嫌だ。早くクラスを確認して退散したかった。

クルリと背を向けると小さいそいつにぶつかる。わっと驚き沖田を見上げる。彼女も紙を見たらしい。自分も言おうと思っていたセリフを先に言った。

「おおー、サド!また同じクラスアルヨ」

「チャイナ・・・またお前かよ」

「きしし、腐れ縁ってヤツネ」

ニヤリとして笑う神楽を見て沖田はげんなりとした。
確かに仲の良い神楽と同じクラスになれたのは嬉しい。しかし、彼女の言う通り沖田と神楽は腐れ縁。数え切れないほど同じクラスにそいつがいた。少し、一年くらいは離れたかった、というのが本音だった。


「うう、これで楽しいクラスじゃなかったら嫌でさぁ」

「きっと楽しいアルヨー」

わははと笑いながら沖田を叩く。痛い。神楽の力は強大だった。





「それより同じクラスの土方って知ってるアルか?」






突然神楽が話題を変えた。

同じクラス・・・?ああ、新しいクラスの話か。
もう過去になりつつあるこの教室に若干同情しながら耳を傾ける。土方?・・・どこかで聞いたことのある名前だった。

「ちょうかっこいいらしいアル。Z組になれなくて残念〜とかそこらへんの女子どもが言ってるアルヨ」

「へぇ。そんなかっこいいのかぃ」

半分信じていない顔で話を聞く。
沖田もその名前は知っていた。頭の隅にあった程度だが、本当にかっこいいらしい。見たことはないが、しょっちゅう噂を聞く。クラスが多いこの高校。なかなか顔を拝めなかった。

・・・でもどうせかっこいいとか言いながら不細工でした、というパターンが多い。今回もその一つだろうと軽く見ていた。

「ワタシ、早く教室行くネ。どんだけ不細工か見てやりたいアル」

「おお、同じ考えでさ。人の話は信じちゃいけねぇ」


先に行く神楽の背中を見て、自分はのんびり教室へ向かおう。土方という名前を頭の隅にまた追いやり、軽い鞄を持ちあげた。







。。。








なんというか、妙なざわつきが特徴的なクラスだった。落ち着きなど一ミリもなく、皆好き勝手暴れていた。
Z組はおちこぼれクラスなのかな、と沖田は思う。少なくとも頭の良いクラスはこんなに暴れない。彼もあまり頭は良い方ではなかった。

ざわざわ煩い教室が嫌で、ちょっとトイレにでも行こうかと教室の後ろの戸へ向かう。この煩い教室に慣れる日は来るんだろうかと心配になりながら。


「(そう言えばチャイナは土方って奴の顔見たのかな、どんだけ不細工だったのか後で聞かねぇと・・・)

わっ」




「あ、わり」






・・・・・・。




・・・・・・止まった・・・。



心臓が。いや時さえ止まったかもしれない。
ぽかんと口を開けてぶつかったそいつを見た。
ぎゅっと締め付けられた胸は次第に激しい鼓動に変わる。
どきどきと身体全体に響くそれに気付き慌てた。
ど、どうしちゃったの、どうしてこんななるの、どうしてこんなに顔が熱いの!?



「・・・?どした?気分でも悪いか?」

「えっ、いえ、何でもないで、す」

「何で敬語?」

おそらく同じクラスであるそいつに敬語を使ってしまった。それほど慌てていた。自分が慌てるなんて、いつぶりだろう・・・。


とにかくそいつはかっこよかった。
美形という言葉が似合う顔。鼻筋は整い、瞳なんか本当に綺麗・・・。キラキラしているように見えるのは気のせいだろうか?


「おーい」

「・・・・・・」


ぼぅっと見つめてしまう。駄目だ。何も考えられない。どうしよう。

「?おいおい、マジで大丈夫かよ」

「・・・いたって冷静でさ・・・」

「マジで?」

声まで低くかっこいい。っていうかかっこいい所しかない。大丈夫って、あんたが大丈夫なの?と沖田は失礼なことを考える。

・・・ん?

ここまで考えて沖田はある一つの名前に辿り着いた。もしかして、いや、そうに違いない?勘のままにその名前を呟いた。


「土方・・・?」

「ん?俺の名前、知ってんのかよ?」


うわあああああやっぱりそうだったァァァァァァチャイナァァァァァ!
そんな叫びを心中で済ませて彼を見た。

うわ。本当にかっこいい。あの噂は本当だったんだ。どうしよう悔しい。不細工じゃなかった!


「あんたが・・・いや、予想外でさ・・・」

「予想外?そりゃ悪かったな」

「いえ、悪い意味ではなく」


言葉を交わすだけでどきどきする。
どうしよう。どきどきしすぎて怖い。胸の奥がきゅんとなる。

「お前は?」

「へ?」

「お前の名前」

「あ、・・・沖田・・・」

「ん?」

「沖田総悟・・・です・・・」


消えそうな声で呟いた。
恥ずかしくてたまらない。名前を名乗るだけでこんなに顔が熱くなるのは初めてだ。

「そっか。俺は土方十四郎」

「う、ん」

「これから一年よろしくな」


にこ、と笑顔を向けられて足から下が崩れそうになる。ああああんかっこいいようううと気持ち悪い声を上げそうになってしまった。



こんなにかっこいいのなら、最初から噂を信じていればよかった。そうすれば、ここまで戸惑うことなどなかっただろう。
後悔しながら彼を見た。まだ少し笑みを浮かべたまま。この顔で性格まで優しかったら、俺は、俺は・・・




「乙女だいばくはつかもしれやせん・・・」

「は?」







本当に性格まで最高に優しくて、そのまま惚れてしまった沖田は一年、片思いに悩むのだった。









***
はいりさま、フリリクありがとうございました!
どうでしょう、おきたさんとかぐらちゃん。の出会い話です^^
最初は沖田はあそこまで乙女じゃなかったようです
土方さんと出会った瞬間から乙女へと進化していきました。しかし土方かっこいいかっこいい言いすぎですねすみません・・・!
美形設定にするとかっこいいっていう言葉を無駄に使ってしまいます。いや、原作でも美形だろうけれど、強調してしまう・・・!(笑
ではでは、フリリクありがとうございました!お気に召さなかったら書きなおし可です・・・!


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