沖土とみせかけて土沖(にしたかった
「まぁここはそういうところだろうな。昔からよぉ、この山道を歩いているとよ、最後の奴が見るって。ババァだかジジィだかが夜中に出てきて真っ白な後光を放つんだとよ。一見すげェありがたやってかんじじゃね?だがな、何かと思って近づいてみるとなんとそのジジィ、いやババァだっけ?どっちでもいいや、顔がな、鬼みてェなんだと。こう・・・眼球がなくて口が歪に避けてよ、鼻がねェっつうもんだから手に負えねェ。寒気がするわ。想像するだけでも」
しんと静まりかえった山の奥で銀八の声だけが響く。生徒達は皆口を閉ざしていて、これが学校一煩いと言われている3年Z組とは思えない。
今の季節は春だ。そんな春に銀八が肝試しをしようと提案した。新しいクラスにまだ馴染めないだろうと配慮して申し出たその提案。それだけならよかった。だがこの坂田銀八、そんなココロヤサシイ人物ではない。
「・・・・・・まぁさっき言ったことは全部俺が考えたことなんだけど」
ふっ、と何人かがしゃがみこむ。本気で信じていた怪談が作り話。よかったという心境と嘘かよふざけんなという心境が混雑する。
「てめぇ銀八!」
「ふぉぉぉ、本当だったらすごい怖かったのに残念アル!」
「ていうか・・・真面目にやりましょうよ・・・」
てんでバラバラな意見が飛び交う中、土方はいつまでもしゃがみこんでいた。
う、嘘だろ。マジで、肝試しなんかやるのかよ・・・?っていうか、銀八も結構怖がりなくせして自分でこういうセッティングすると大丈夫とかタチ悪りィだろ・・・!
ぐるぐるとそんな言葉だけが頭の中を交差する。ああ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰って世界不思議発見みてェェェェ!
そこまで来てやっと思考が落ち着く。ふと周りを見渡す。・・・何故か人が減っている。
「!?・・・、!?」
極端に少なくなったクラスの皆に動揺した。え、あれ?と独り言を呟く。すると。
「ぎゃァァァァァァァァ!!」
「ぅわっ!」
耳の近くでぶわんと生温かい何かが触れた。驚き声を上げる。何、何、何!
「そんな驚くことないじゃないですかィ。俺ですよー」
「そう、ご」
両手を上げいつもの掴めない表情をしている沖田を見、土方はがっくりと肩を落とす。耳に触れたのは沖田の舌だった。今が明るい昼間なら、何かそういうことをいきなりしてきた沖田に、土方が顔を真っ赤にして抗議をするパターンだが今は夜中。冗談じゃないくらいに怖かった。
「やめ、本当・・・ハァ・・・」
「おやァ、相当参ってるようですね?」
「皆どっか行っちまうし・・・」
「そりゃそうでさァ。ペア作って、もうとっくに肝試しに行きましたよ」
ぱちくりと瞬き。
土方は聞いていなかった。今から二人でペアを作り、山道をこれから一周してくるというのだ。原則として、2分待って1組ずつ山道に入っていく。
「2分ですからね。叫び声を上げるなんてことすりゃぁ、皆に一発で聞こえますよ」
プライドが高い土方に、それは屈辱すぎる行為だった。
だがしかし、情けないが土方は怖がり。銀八が何か罠でも仕掛けているのなら、叫ばない自信はなかった。
「もういい、俺、帰るわ。無理。ぜってェ無理」
「それじゃぁ、土方さんは怖がりの腰ぬけということになりますね」
ぴくり。
土方の片眉が上がる。
「肝試しですよ?き も だ め し。試さず帰るなんざァ、怖がりだって自ら言ってる証拠・・・」
「だァァァァ!行けばいいんだろ!で、ペアは誰だ、行ってやらァ!」
一気にブチ切れた土方が周りを見渡す。時間が経ちすぎた今は当然、土方と沖田しかいなかった。
「は?」
「俺らが最後みたいですねェ」
たしか・・・最後に・・・歩いた奴は・・・。
「大丈夫、俺がいまさァ」
「嫌だァァァァァァァァァ!!!」
ぽふりと沖田に肩を叩かれて、土方の絶叫が早々と轟いたのだった。
(嫌だ、嫌だ、絶対嫌だ!)(諦めなせェ。・・・俺がいますよ)
続く!
襲い受けを目指します。
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