「短い命でしたね」


ふと。
目が覚めたら隣で小さく声がした。まだ瞼そのものを持ち上げる気力もなく、ただ覚醒しているだけの暗闇の中土方は聞き飽きた低い少年の声を聞く。

「二十そこそこで逝くなんて、俺よりは年寄りですけどそりゃねェですぜ」

暖かな布団の中その声のみを聞き続けた。
何だこれは。
俺は、死ぬのか。
死ぬ直前までは脳は音を記憶しているらしい。その記憶を辿っているだけなのか、俺は。
土方はうすらぼんやり、そんなことを考える。

「最後まで、俺は見ています」

ぱたたっ。
水が落ちる音が聞こえた。畳に染みこんでいるであろう、それは、それは。



「この俺を泣かせやがってちくしょう土方ァァァァアア死ねェェェエエエエ!!」

「死んでねェェェェェェェェェェ!!!!」

たまらず土方はがばり起き上がってシャウトした。おかしいと思ったのだ。暖かくまどろみの中にある腹の痛みは確かに痛覚、生きている証だ。死んでいるはずはないのだ。

確かに今から十二時間と三十分前、銃乱射の中刀を振り回し多少無茶な特攻を試み案の定腹を撃たれてしまったがそれ位では死ぬ筈はない。
それ以上の危機に幾度となく陥っている。これごときで死ねるものか。

山崎を筆頭にえっさほいさと副長室へ運ばれ治療もすんでいる。十時間位寝こけていたが仕方ない、結構な重症だった。

そんな重症の土方へ何なのか沖田は先ほどからマイナスオーラどころかどす黒い台詞を隣で吐きまくっていた。
嫌がらせか?嫌がらせなのか?土方はこめかみをひくひくしながら布団にわざとらしくつっぷして、いかにも死人に縋りつくポーズを取っている沖田の頭を押さえた。

「勝手に殺すな死んでたまるかっつってんだよ」

「…………」

「総悟?」

力強く痛い位に押さえていた手を緩める。おかしい。つっぷしたまま沖田は動かない。おーいと声をかけ、はっとした。
体勢を変え沖田の顔を覗き込む。

「……何だ?泣いてんのか」

「……だから泣かせやがってって言ってんだろィ」

冗談ではなかったらしい。
ちらりと片目を土方に向けてまたもぞもぞと自らの腕の中に顔をおさめてしまった。見えた片目が涙いっぱい詰まっていたのを見て土方はどきりとする。

そういや、ぱたぱたと畳に雫が落ちる音がしたっけな。

ふっと息を吐き出し土方は何とも言えない胸の高鳴りを感じる。先ほどの台詞は、結構マジな思いをそのまま口に出していたのだろうか。

「そーうご」

「きっしょくわりぃ声だすなィ」

「ハ、嘘言え。好きなんだろこの声」

「誰が!」

最後の叫びが震えて少し高く響いたのがたまらなくおかしい。土方はクツクツ笑いながら沖田の丸い頭を撫でる。

「わりぃ。総悟が先に行って焦って特攻しちまった」

「本当でぃ」

戦場の中、目の前踊る沖田が心配で土方らしかぬ行動を取ってしまった。それが一番の原因だった。

「ねぇ、土方さん。本当に死なねぇ?」

「死なねー。」

むくりと起き上がり、真っ赤で大きな瞳を土方に向け心配そうに沖田が見つめる。まだまだ子供か。本当の本当に?なんて可愛らしいことを聞いてくる。

「ふ、ちゃんと痛い。生きてんだろ」

「あんまり心配させねぇでくだせぇ。それに」

ぐぃと。沖田が身を乗り出して土方の頬に唇を落とす。触れ合った頬がいやにカサカサとしている。どうやら本気で号泣したらしい。伝った涙で肌が乾燥していた。
沖田の小さな唇が動く。

「それに、えっちできねぇでしょう」

「……おま……」

片手で顔全体を覆い土方は目の前の欲に溺れまくっている少年に呆れる。こうしたのも自分か。なんて。

遠い目をしながら沖田をちらりと見た。

「とりあえず煙草吸いてェ。買ってこい」

「らーじゃ」

むらむらとしているこの気分を落ち着かせるべく沖田を外へと誘導した。さてどうしたものかと悩む土方。


十分後には何故かエロ本を手に参上した沖田にまた悩みまくる土方がいるのだった。




END
***
雪菜様リクエスト『土方さんが戦いの時に一瞬の隙をつかれて怪我をして、それを凄く心配する総悟』でした!
遅くなって申し訳ありませんでした。
何故エロ本を買って来たかと言いますと、あの、小姓のテツと同じパターンを踏んだ結果です。出来なくなっちゃうのが嫌な総悟でした。阿呆ですみません(お前がな
ではでは、雪菜様リクエストありがとうございました!


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