「ああああ絶対無理でさァ、恥ずかしくて死ぬ」

「そりゃ俺もだコノヤロ」


屯所のとある部屋、襖を挟んで沖田と土方は震える声で話していた。
顔は真っ赤で目には涙さえ浮かんでいて…なんてことは決してない。むしろ二人は顔を青くしていた。血の気が引き緊張した様に沖田は自分自身を抱き締めるポーズを取る。

「あと……五分ですねィ…」

「…そろそろ行かねェとな」

「……ねェ土方さん」

「あ?」

時計を眺めつつ沖田は時間を確認し土方を呼んだ。向こう側にいるであろう土方の顔を思い浮かべながら襖に背もたれる。微かに香る焦げ臭い匂いに顔が緩んだ。すぐそばにいる。わかる。だから煙草を吸っている土方は好きだ。
きっと、緊張で堪らず既に数本煙草を吸っているのだろう。

「後戻りできませんぜ。嫌って言っても俺ァ一生アンタに取りつきますよ」

「上等だ。…ってか取りつく言うな。それに俺の台詞だ。ぜってぇ離してやんねェぞ」

「上等でさァ」

すっくと立ち上がり真っ白なズボンのおしりをはたき沖田は土方の居る部屋と真逆の方へ歩いていく。屯所の一番大きな部屋へ。そこはいつも飲み会やら大きな会議やらで使用している部屋だ。
入る一歩手前で沖田は深呼吸をした。すっと目を閉じる。声が聞こえる。がやがやと煩い隊士達の声だ。
緊張が襲って来る。肩や胸、首筋をざらざらとした砂粒がゆったりとした風と共にぶつかってくる様な気分だ。

手を添え思い切り襖を開いた。
スパァンと派手な音が響き中にいた大人数の隊士達の視線が沖田に釘付けになる。
ほぼ同じタイミングで長方形の形をしているその部屋真向いでも派手な音がした。
土方だ。土方も沖田と同様スパァァンと襖が軽く跳ね返ってくる位に勢いよく開いていた。
こうなると隊士達はきょろきょろと沖田と土方を交互に眺める。目を丸くし口を開いている奴もいる。この状況が読めないのだろう。

それはそうだ。土方も、沖田も、二人とも真っ白なタキシード服に身を包んでいたからだ。

その中一人、近藤だけは今にも大笑いしそうに肩をすくませ笑っていた。


沖田はつかつかと進んでいく。前にいる隊士達なんざ知ったこっちゃない。もう踏み倒す勢いで進んでいた。
土方も同様こちらへ早歩きで向かって来る。ああもうちくしょう意外と白い服装も似合うじゃねーかなんて初めて見る土方のタキシード姿の感想を頭に浮かべながら沖田は歩く。部屋の真中まで。

「……」

「……」

ぴたりと止まって間ができた。シンと屯所らしかぬ静かな時が流れる。しかしそれも一瞬だった。

「……ンッ、」

「……ん、」


阿鼻叫喚。

ぎゃぁぁぁ、ええええ、嘘ォォォ等々叫ぶ驚く立ち上がる無言で呆ける個人さまざまな反応を確認しながら沖田は顔を真っ赤にさせた。目を瞑り現実逃避。とりあえず今は唇の感覚だけに集中しようと躍起になった。

遠くでがっはっはと近藤の笑い声が聞こえる気がする。恥ずかしくて死にそうになりながらも沖田は土方の首へと手を回す。

キィンと耳鳴りさえしてきた。ぐらぐら視界が歪む。それ程に今の状況は普通じゃなかった。

まぁ、それは。
もちろん土方も初めてのことだろう。
こんなに大勢の人の前で恋人と口を合わせるなんて、行為は。


「んはァァァァどうだァァァァァ!!」

「これで満足かコルァァァァ!!」

もうヤケだった。
誰に向けての言葉か本人達もよく分かっていないがそんなことを口にしつつ抱き合ったままぐるりと辺りを見渡す。罰ゲームか何かかと慌てふためく隊士達へ。

「土方さんホラ早く!」

「俺かよ!……っ、今日、集まってもらった理由、は、これだ!!」

「分かるかィ!もっと詳しく言いなせェ!」

「だァァ、お前らよく聞けや!……俺と総悟、結婚すっから!」

「……っ、」

以上!あーやってられるか!そんな事をぶつくさ言いながらネクタイを緩めシャツのボタンを開けつつ土方は大部屋からずかずかと出ていく。はぁっと息を吐き出しながら沖田は赤い顔で後に続こうと足を進めた。

後ろ手でぱしんと襖を閉めて沖田はぼんやりと空中に視線を投げた。今だ部屋の中は混沌としている。ウソだろマジで、罰ゲームじゃねぇの、本当ですか局長ォォォなんて隊士達の声を聞きながら沖田は片手で頬を押さえた。
そして話しかける。すぐそこでしゃがみこみ項垂れている土方に。

「ハァ、やっぱちょっとやりすぎですかねぃ?」

「……あ?あぁ……もういいだろ別に…」

「や、でも、まぁ楽しかったですよ。あいつらの顔傑作でさァ……」

「無理すんな……」

「……元々は俺がしたいって言いだしたんですし」

「……そりゃ俺も同じだろ…悪乗りした俺も悪い…」

ちらりと土方を盗み見た。髪の毛から除く耳は真っ赤で、よほど照れているのだろう。自然と笑みが浮かんだ。愛しい人の照れる姿はなんでこんなに胸が苦しくなるのだろうか。

「土方さん。」

「ん?」

「幸せになりましょうね」

「あぁ。そりゃ、もちろん」

「……ん」

「ん」

土方と向かい合って再びキスをした。ちゅ、ちゅ、と啄み時折土方が唇を舌先で舐めてくる。くすぐったく気持ちいい。こちらも負けじと舌を出す。ほんの少しだけ触れる舌にあッと声が漏れた。

「…土方さん、白い服も似合いますね」

「そらお前だろ。…似合ってる」

素直に褒め合いながら二人で笑った。
幸せだ。
さっそく自室のカレンダーに丸印を付けようと沖田はうきうきとした気分で考え再び土方に口付けを求める。


記念日だ。

沖田は今日から土方になる。


一昨日の深夜の話だ。
二人は酔いに酔いまくり最近できた同性婚をしたいとノリノリで会話を進めた。運の悪い事にその場に居合わせた近藤が本気にしてしまったらしい。真っ白なお揃いの、サイズが違うタキシードを本日用意されてしまった。
酔って進めていた「隊士達の前でチューと大胆告白作戦」を実行せざるを得なくなってしまったのである。


「とりあえずキモいなんて言う隊士達には切腹命じてくだせェよ?」

「んなの当たり前だ」



ところがどっこい、次の日会う隊士皆々におめでとうございますと祝福を受ける羽目になる土方十四郎と土方総悟であった。


 ハッピーエンド!


***
cherry様リクエスト『真選組のみんなに恋人同士だったことをばらして結婚式を挙げる話』でした!
大変お待たせいたしました。申し訳ございません。
そして斜め上どころか結婚式…?な内容でごめんなさい…!総悟にウェディングドレスを着せようか悩みましたがタキシードにしてしまいました。江戸時代と言えど色々今より進んでいる銀魂世界。だったら同性婚もできる様になるんじゃね?と思って書きました。土方総悟という響きに何度も夢を見ています。
ではでは、リクエストありがとうございました!


あきゅろす。
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