暇だったからだ。
ただ、暇だったから、俺はここにいるのだ。




 アイロニー




副長室は良い所に設置してあると思う。副長室の縁側で俺は心地良い風に吹かれていた。さすが屯所の中で一番風通しが良い所だと思う。

カリカリと、背後で副長がペンを走らせる音だけが聞こえた。珍しい、と頭の隅で考える。いつもはご丁寧に墨まで磨って書類を作成するのに、だ。今日は忙しいのだろうか。時間がないから、簡単にボールペンで済ませているのか。

「……。」

ここまで考えてとても嫌な気持ちになった。何故、俺がこんな野郎のことなど考えなければならないのだろう。しかも事細かに。
一人拗ねた様に片膝を抱えた。俺は何を考えているのだろう。

……何を、考えているのだろう。黙って来て、黙って縁側に座って、何も言わない俺に、一言も声をかけずにいるのだ、土方さんは。
振り向きたい。顔が見たい。何故だか不安でたまらない。いつも煩く怒鳴りちらしている彼の声が聞こえないと、どうしたらいいのか分からない。この気持ちは何だろう。寂しい。

「土方さんは、恋したことありますか」

結局振り向けずに俺は、そんなことを口にしていた。
風が吹き、髪が耳の横でばさばさと鳴った。

「あるよ」

風は止み、さらりと耳に掛かる程度まで伸びた髪が頬をなぞった。
土方さんの答えが返ってくるなんて思わなかった俺は、息を飲んだ。驚いた。こんなに素直に返事をしてくれるとは。

「楽しい?」

「楽しかねェ」

「どうして」

「生憎振り向かせようと躍起になるタイプではないんでな」

「それだと楽しいですか」

「楽しいだろうな。辛い時もあるだろうがな」

「…そうですか」


雲が流れ、辺りが一気に明るくなった。
俺は立ち上がる。まさか土方さん本人からアドバイスが聞けるなんて思わなかった。今まで意地を張って無視していたが素直になろう。せめて自分の気持ちにだけは素直でありたい。

「ねぇ、土方さん。俺は躍起になるタイプらしいんでさァ」

「は?」

近付く俺を見向きもしない土方の背後に近付き、頬に手をやった。後ろからそっと、土方さんの右頬を。

ぐぃ、と左を向けさせる。その方向には俺の顔。



「楽しいですぜ、恋ってのは」

「……………」



ぽっかんと口を開いたその顔に、もう一度口付けようと目を瞑った。





Thanks!「irony」
***
歌が土沖過ぎる。
総悟は頑張るタイプだと思う。何が何でも俺の物にしてやる!ってタイプだと思う。
相手が何を考えているのか気になって仕方なくなったらそれはもう恋かもしれないね!


あきゅろす。
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