アクタベ氏。

アクタベ氏。

「ベルゼブブ」

もっと強く、抱き締めてください。





悪魔の見る夢





ぺしり。
間抜けな音が聞こえてベルゼブブは飛び上がった。確かに自分の頭からその音は出ていた気がする。
いつも眠そうに薄く開けている瞳が、今回ばかりは大きく見開いた。

「な、何をするのです!」
「いつまでも寝こけているからでしょう。もう夕方ですよ?」
「だからと言って叩くことはないでしょう!調子に乗ってんじゃねーぞビチクソ女ァァ!」
「はいはい」

佐隈は片手をひらりと振った。
ベルゼブブを叩いた方の手だ。昼からずっと、ソファですやすや熟睡をしていた悪魔。見かねた佐隈は、起こそうと右手でベルゼブブの頭を叩いたらしい。
対して痛くもかゆくもなかったが、この高貴な貴族のベルゼブブ、他人から頭を叩かれるなどという屈辱は受けたくなかった。

「今度したら顔面にウンコ塗りたくってやるからな!」
「そういうこと言うのやめてくださいよ。せっかくさっきまでかわいかったのに」
「?」

ベルゼブブは目をぱりくりさせた。
佐隈が自分のことをかわいい、と言うのは滅多にない。
私、何かしましたかね?
首を傾げて佐隈を見上げた。

「あれ、やっぱり寝言だったんだー」
「寝言!?私何か言ってたんですか!?」
「うん、すごくはっきりしゃべってましたよ」
「何を言っていたのです!教えなさい!」

すっくとベルゼブブは立ち上がり、佐隈に詰め寄る。もしも変なことを言っていたら赤っ恥だ。アザゼルに伝わる前に、口止めをしておかないと!


「アクタベ氏、って。」

「えっ?」


どきり。
その名前を聞いただけでベルゼブブの心臓は飛び上がる。何だって?何だって?

「アクタベ氏」

「アクタベ氏」

「アクタベ氏」

「・・・って、すごく幸せそうな顔で、しきりに呟いてましたよ」

頭が真っ白になる。
そうだ、思い出した。夢を、見ていた。
彼が自分を愛おしそうに抱きしめる夢。耳元で、愛の言葉を囁かれた。甘く蕩けそうな声色で、自分の名前を呼んでくれた。
たまらなかった。
ぞわぞわと何かが背筋を駆け抜けるこの感覚。肩が震えて目を閉じた。いつも怖くて仕方がない彼が、とても優しく抱きしめてくれている。
ああ、アクタベ氏、私は、私は、

「ベルゼブブさん?」

はっとベルゼブブは我に返る。
いけない、夢を思い出してそれに浸るなど、悪魔らしくない。
「そ、それ、誰にも言ってませんよね!?」
慌てて佐隈に問いかける。もしもあのアザゼルなどに聞かれていたら、一週間は笑いのネタにされるであろう。
「あぁ、言ってませんよ?」
「よかっ」

「その場に芥辺さんは居ましたけどねー」

にっこり笑った佐隈の顔がぼんやり薄らいだ。
ああ、もうダメだ・・・。
よりによって本人に聞かれるなど。ベルゼブブはふらふらとソファに座りなおした。

「で、ややや奴の反応は」
「芥辺さんの反応?」

こくこく頷くと佐隈は眉を寄せた。
言っていいものか、悩んでいる様だった。

「・・・どのようでした?」
「それが、おかしかったんです」
「?」
「何度も名前を呼ばれて、いつものポーカーフェイスで黙々と本を読んでいるかと思ったら、その本逆さまだし。トイレに行こうと立ち上がったらつまづきそうになるし。さっきだって、落ち着かない様子でどこかに出かけましたよ」

「・・・」

とくり。
静かに高鳴る心臓が、少しずつ早まっていく。


アクタベ氏?
さくまさんの言っている言葉は、本当なんでしょうか。
信じてもいいのでしょうか。
私の寝言に反応するなど、あなたらしくない。

らしくないそれを、喜んでいいですか?




我慢ならずにとうとうベルゼブブは、
小さな両手で顔を覆った。





END
***
支部に上げた奴です。なにこれかわいいタグに死ぬかと思った
原作未読のため見苦しい点お許しください・・・!


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