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僕のお家と愛しい人



久しぶりにバニーちゃんとお酒を飲みたいお泊まりしたい。
そう電話をかけてきた虎徹さんに、今日も今日とてヒーローのお勤めという名の雑誌の撮影を終えた僕は即座に良いですよと返事を返した。
最近、ヒーローとして雑誌やテレビ番組の取材ばかりで、虎徹さんと別々に行動することが多かった僕は、彼の電話と久々のお誘いに胸を躍らせ車に乗り込んだ。
先に仕事を終えた虎徹さんを待ち合わせの場所で拾い、慣れた手つきでハンドルを切り自分のマンションへと向かう。
サイドに座った彼は久しぶりの僕の家に心なしかソワソワとしていた。
そんな彼の両の手には大きなビニール袋が抱えられて。
僕の為に買ってきてくれたワインやおつまみは僕の好みのものばかりだ。
勿論、彼の大好きな焼酎やビールが入っていることも確認済み。と、いうことは途中でどこにも寄らなくて問題ないようだ。
僕は迅速に尚且つ安全運転で、我が家へと車を走らせた。

「たっだいまー!」
「それを言うならお邪魔しますでしょう、虎徹さん」

鍵を開けて先にと促すと彼は大きな声で、まるで我が家に帰ってきたようにそう言う。
その言葉に擽ったさを感じながら僕は扉を閉めると、中へと入っていく虎徹さんの背中を見て僕もただいまと小さく呟いた。

「おかえり、バニー」

振り返って、彼は僕の小さな声に当たり前のようにそう返した。
驚いて顔を上げると、彼は悪戯が成功した子供のように笑顔を浮かべて、奥の部屋へとさっさと入ってしまった。
僕は呆然と立ち尽くして、そうして思い出したように頬が熱くなるのを感じた。
僕は熱を逃がすように首を緩く左右に振って、そして彼が入っていった部屋へと足を向けた。

お酒を何本か開けて、僕と虎徹さんは何気ない話をする。最近起こった出来事とか、ヒーローたちの話とか。
そんな話を嬉しそうに話す彼の横顔を僕は頬を緩めて見詰めて、甘酸っぱいワインを口に含んだ。
彼は円滑に喋り、乾いた喉をビールで潤す。
もう五本目になるビールに僕はそろそろ虎徹さんを止めないといけないと思い、彼の前に置かれた開いてない缶を手に取った。

「明日も仕事だからこれくらいにしないと駄目ですよ」
「えぇー…」

僕はそう言ってソファから立ち上がるとビールの缶を冷蔵庫に終う。虎徹さんはそんな僕を見て不満そうに唇を尖らせた。

「うう、ばにーちゃぁん」

もうちょっと飲みたいと甘えた口調で僕の元へと来た虎徹さんは、僕の腰に腕を回した。
そんな彼の姿に僕は仕方のない人だなと苦笑をもらし、腕を掴んで身体を入れ替え、お酒で頬を赤らめた彼と向き合った。

「駄目ですよ、虎徹さん。二日酔いにでもなったらどうするんですか?」
「だいじょーぶ!だいじょうぶだって…」
「もう、虎徹さんはそう言って何度僕に迷惑かけたと思うんですか?」

もう歳なんですからね。
僕は少し口調を強めて、虎徹さんの身体を抱き上げた。
浮遊感におお、と間抜けな声を上げた虎徹さんは僕の首に腕を回して落ちないように必死にしがみつく。
そんなことしなくても落とさないのに、と僕は心の中で呟いて僕は寝室へと向かった。

「さ、明日も早いんだから。さっさと寝ましょうね、虎徹さん」

僕は酔っぱらいの虎徹さんをベットへと下ろすと毛布を彼の首元まで掛ける。
彼は嫌々と首を振って、まだ寝ないと駄々を捏ねる。
そうして伸ばされた腕は僕の腕を掴んで、虎徹さんは僕の身体をベットへと引きずり込んだ。

「うわっ…」
「ははっ、ばにー」

引きずり込まれた僕は虎徹さんの首筋に顔を押しつけた。
アルコールの強い臭いと、虎徹さんの甘やかな香水の匂いが混じった体臭が鼻孔を擽る。
僕は驚いてとっさに離れようと身を引こうとするが、彼の手は僕の背中をがっちりとホールドしていて身動きが取れなかった。

「虎徹さん」

非難めいた声色で彼の名前を呼ぶ。
そんな僕を気にする様子もなく、彼は僕の色素の薄い金に近い髪を掻き混ぜた。

「ばにーのかみ、やわらかいな」

節くれ立った男らしい指先が優しく僕の髪を撫でて、舌っ足らずな声が僕の名前を呼ぶのにどうしようも出来ずに息を吐く。
このまま僕は彼の隣へと寝転がって、虎徹さんの顔を覗き込んだ。

「一体、どうしたんですか?」
「んー…?」

まるで子供をあやすようなその手つきに僕は彼の頬に手を伸ばした。上気した頬はほんのり熱くて、僕の手にじんわりとその温かさを伝えてくる。
彼は体温の低い僕の手が心地良いのか猫のようにすり寄ってきた。

「ばにーちゃんぶそく…」
「何ですか、それ」
「そのまんまのいみだけどなぁ…」

ばにーちゃんにはわかんないかぁ。
虎徹さんは瞳を閉じて、僕の胸に額を寄せてそう呟いた。

「…僕だって、虎徹さん不足ですよ」

だからあなたが僕の家に来たいって言ったときは嬉しかったんだ。こんな、何もない空間に、あなたが居るだけで僕は本当に幸せだと思うんですよ。

「あなたが僕の家にずっと居てくれれば良いなんて、思ってるんですよ」

ねえ、虎徹さん。
僕は彼の頬に掛かる黒い髪を撫でて、笑みを零した。
彼は瞳を閉じて、安らかな寝息を立てている。

「…全く、タイミングの悪いおじさんですね虎徹さんは…」

僕は彼の薄い瞼に口付けを落として仰向けに寝転がった。
離れた手のひらはまだ熱を持って、まるでそこから熱を放っているかのように感じる。

「おやすみなさい、虎徹さん」

僕は愛用の眼鏡を外してベッド脇に設置してある棚に置いた。毛布の中へと体を滑り込ませると碧色の瞳を緩やかに閉じる。
虎徹さん。
あなたにただいまと言われる度、あなたにお帰りと言われる度、僕の部屋の空間は暖かい満ち溢れる。
僕があなたにただいまと言い、あなたにおやすみという度に僕がここに居る実感が沸く。
だから、どうか、これからも。
ずっと僕の側に、たまにで良いから家に来てください。
僕は本当はあなた以上に、あなたが家に来るのを待っているんです。









へちまさまリクエスト
ありがとうございました!




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