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痛み分け
6




(背の高い男。ウロボロスか…?それとも金と引き換えのただのネクストか…?)

バーナビーは男の動向に目を離さないよう横目に見詰める。
ふと、ハワードへと駆け寄る黒服姿の男が目に入り、バーナビーはワイングラスをテーブルへと置いた。男はハワードに歩み寄り、何かを耳打ちする。
ハワードはその言葉に一瞬だけ目を大きく開き、男に何事か話すと歩き出した。
バーナビーはハワードと男の姿が消えてから、男たちが出て行った扉を確認した。
そして頭の中に叩き込んだ地図を元にバーナビーは別ルートからハワードの姿を追った。
バーナビーは人目の付かない廊下を、左胸を押さえながら進んだ。
癖だ、とバーナビーは心の中で舌打ちして右手を下ろした。
以前、ネイサンに指摘されて気付い癖は、どれだけ直そうとも直らなかった。
それは、自分が緊張しているときに無意識に現れるとても厄介なものだ。
バーナビーは自分が緊張しているのだと知り、心を落ち着かせるためにスッと息を吸い小さく吐き出した。

ふと、曲がり角で男の話声が聞こえて、ぴたりと足を止める。
気配は二つ。
一つはハワードのもので、もう一つは。

「…彼が必要になりました。返して頂けますか?」
「何を言っている!!アレは私が高額で買い取ったものだぞ…!」

淡々とした男の声と、荒々しいハワードの声が対称的に廊下に響きバーナビーは陰からそっと様子を覗き見た。
ハワードはフンと鼻息を吐き出して、ひょろりとした男を睨みつけている。

「あなたは勘違いをしている。あなたは、彼の能力を買っただけだ。彼は他のネクストとは違って売り物ではありません」
「なんだと…!?」

男のネクストという発言にバーナビーは目を細め息を呑んだ。ドクドクと心臓が脈を打ち頭に血が集中している。

(ウロボロス…か?)

息を潜め、気配を殺して慎重に二人の男の姿を捉えた。
淡々と話す細い男は銀色の長い髪のせいで表情は窺えないが、逆にハワードは耳まで真っ赤にさせて憤っているのが暗がりでもわかった。

「さあ、彼が何処にいるのか話してもらいましょうか?」

銀髪の男の掌からボッと青い炎が浮かび上がってハワードは顔色を変えた。
その炎を手に銀髪の男はハワードの元へどんどんと近付いて壁際へと追い遣る。
バーナビーは二人の行動を見ながらそっと懐へと手を入れ、銃を途中まで引き抜いて踏み込む準備をした。

「ま、待ってくれ!!!」
「待ちません。私も、彼も自分の命が掛っていますので」

青い炎がハワードの髪を、皮膚をじりじりと焦がしていく。
男が本気だと観念したのかハワードは喉を鳴らして、わかったと何度も頷いた。

「ア、アレはシュテルントビルトホテルに居る。12階の1204号室の部屋だ」
「そうですか」

銀髪の男は青い炎を消し去るとハワードから離れた。
ハワードは脂汗を額に浮かべ、壁伝いにその場にズルズルと崩れ落ちる。
銀髪の男はそんなハワードに興味を失くして、踵を返した。
それを待っていたかのように、何処からか現れた黒服の男たちが銀髪の男の周囲を取り囲んだ。

「はっ、ははははは…ッ!行かせはせんぞ。あんな素晴らしいネクスト。貴様らなどに返すなど!」

ハワードは緩やかに立ち上がり、懐から銃を取り出した。
銃口を銀髪の男に向けて下品な笑みを浮かべた。

「残念だったな!貴様はここで死んでもらう」
「…残念なのはあなたですよ、ハワード氏。…大人しくしていればよかったものを」
「……!?」

ボッ、と空気に反応して、黒服の男たちの身体が青い炎に包まれる。
ハワードは目の前の光景が信じられず、手から銃を床へと落とした。
それがまるで合図のように炎は勢いを増し、青はハワードを飲み込むように口を開いた。

「ま…まって…ぎゃあああああぁぁぁ!!!」

炎の中でもがき苦しむ黒い影を見てバーナビーは咄嗟に口元を押さえた。
人肉が焼ける酷い刺激臭が鼻を突いて、バーナビーは急いでその場から離れた。

(12階、1204号室…)

バーナビーは男の言葉を心の中で復唱し、会場を出て駐車場へと向かった。
青い炎の男の手にはウロボロスの紋章は見当たらなかったが、能力で意図も簡単に人を殺めるということは少なからず組織に関与しているとバーナビーは考えた。

(…ネクスト、厄介な存在だ)

バーナビーは舌打ちし、ネイサンから譲り受けたシルバーの車に乗り込んだ。

「あの男より先にホテルに居るネクストに接触出来るといいんですが…」

バーナビーはそうポツリと呟いて、シュテルンビルトホテルへ向かうべくハンドルを切った。






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