痛み分け 35 「…何しに来た…」 「何しにって…わざわざ迎えに来てやったのにその言い種はねーだろ?隠れ家まで変えやがって…捜すの苦労したんだぜ」 「……」 「なあ。そろそろ戻って来いよ、虎徹」 男はふざけた猫撫で声で、虎徹を誘惑する。 しかし虎徹はそんなジェイクの姿など気にも止めずに淡々と言葉を告げた。 「俺はウロボロスに入った覚えも、お前の仲間になった覚えもない。俺が居るべき場所はお前のところじゃない」 ジェイクは虎徹の言葉に大げさに肩を竦めて見せ、そしていやらしい笑みを浮かべた。 「おいおい、そんな冷たいこと言うなよ、なぁ?」 ジェイクは虎徹の顎から手を離すと、虎徹の左足を緩やかに撫でた。 男の這う手はとても熱く、左足に植え付けられた古傷がジクジクと痛み疼いた。 「お前に痛みを教えたのは誰だ?復讐の仕方をおしえてやったのは誰だ?なあ、虎徹?」 男の麻薬のような言葉に、フラッシュバックする記憶に、虎徹は目頭がカッと熱くなった。 逃げだそうと抵抗を試みるが、ジェイクの腕は虎徹の身体に絡みついて離さない。寧ろ徐々に抵抗する身体をねじ伏せて、男は虎徹の身体を抱き寄せた。 「お前は大人しく俺に従ってろよ、虎徹」 ジェイクの言葉に嫌々と首を振る虎徹だったが、流れ込む意識ではろくな抵抗は出来なかった。 化け物と罵られ、迫害を受けて。 感情ばかりが脆く出来上がった、肉体の痛みを知らない子供。 初めて出来た親友を助けたいと願って、その能力の意味を知り、親友の痛みを受け入れた日。 子供の中で、世界がもっと残酷に変貌した。 「いや…だ…」 沢山の守りたいもの。 親友、仲間、恋人、恩人。 けれど全てが残酷に奪われ、救いたかった命は手のひらから零れ落ちていった。 救える筈だった命は全て。 「…だれ、か…」 「誰かじゃねぇよ。俺が居るだろ?」 唇を歪めて笑ったジェイクは虎徹の左足から手を離すと、苦痛に表情を歪めたままの虎徹の髪を乱暴に撫で付けた。 そうして楽しくて仕方のない足取りで、ジェイクは踵を返して外へと向かっていった。 「……」 虎徹はまるで洗脳にあったかのようにない足取りでジェイクの後ろを追う。 そんな虎徹を止めたのは血の気を失った骨張った指先だった。 「だめ…です、虎徹、さん…ッ」 虎徹は、血塗れで動くことなど出来ないユーリが懸命にズボンの裾を掴んでいる姿を見て我に返り、虎徹は彼の元へとしゃがみ込んだ。 「ユーリ…」 冷えた手を握りしめて、彼の名前を呼ぶ。 ユーリは弱々しく虎徹の手を握り返して、自由の利かない身体を無理矢理起き上がらせ、床に膝を付いた。 [*前へ] |