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痛み分け
34



虎徹は三人の後ろ姿が扉の奥へと消えていくのを確認すると、店の入り口へと向き直った。

「……っ!!」

不意に紫の閃光が襲って、虎徹はとっさに片腕で顔を覆った。
ユーリの青い焔とは別の、脳裏に焼き付く紫に、虎徹は顔を覆っていた腕をだらりと下げた。
このガラス一枚隔てた先に最も会いたくない、あの男が居る。
脳内で警鐘が鳴り響いているにも関わらず虎徹の身体はまるで鉛のように重く、動かなくなってしまった。

青の焔と紫の閃光が消え去り、辺りに静寂が広がる。
ただ、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえて、虎徹は目の前の扉から視線を逸せずにいた。

「ったく、手間とらせやがってよぉ…」

男の間延びした声が耳に届いたかと思うと、扉と共に吹き飛ばされた銀色が視界に映った。
虎徹は店内に転がり倒れ伏すユーリの姿に駆け寄りたい衝動に駆られたが思うように身体が動かず、結局その場に立ち尽くしたままだった。
そうして扉の先に自分が最も会いたくない男の姿を捉えて、虎徹の身体はぶるりと震え上がった。

「よう、虎徹」

男の、支配力に満ち溢れた声色に虎徹は返事を返すことなく相手を睨み付けた。
男は虎徹のそんな視線を諸ともせず、我が物顔で店内へと足を踏み入れる。

「お前の飼い犬に噛まれちまったじゃねぇか。ちゃんと首輪つけろっつーたろうがよぉ?」

ほら、みろよ。
男が翳す左手は、ユーリが負わせたであろう火傷痕が、仄かに赤みを浮かび上がらせていた。

「お前の後付けさせてた奴ら全員丸焦げだぜ。ま、あれぐらいの焔に燃やされるようじゃ、捨て駒としても使えねぇ…が、」

男は店内へと足を進めると、倒れたまま身動きの出来ないユーリの前に立った。

「俺様の大事な手に傷付けやがってっ!」

男の容赦ない蹴りはユーリの腹部に入り、受け身など取れなかったユーリはまともにその一撃を喰らい腹部を押さえてもがいた。
青白い唇からはボタボタと鮮血を滴らせ、眉間を寄せて痛みに耐えるユーリの姿を、虎徹は悲痛な声を上げた。
そして、そんな行為を止めさせようと動かぬ足を叱咤させ引きずり男の前に立ち塞がった。

「ジェイクッ!止めろッ!」

ジェイクと呼んだ男と、ぐったりと横たわるユーリの間を割って入る。
動けるようになった身体は恐怖に震えていたが、虎徹はジェイクに悟られまいようにと気丈に振る舞った。
しかし男は虎徹の恐怖心を見抜いて、面白そうに金の瞳を見詰めている。

「おいおい、俺の能力を忘れたのか?ん?ビビってんの、丸分かりなんだぜ、虎徹ぅ?」
「……」
「全く、何でそんなに可愛くなくなっちまったかねぇ…」

ジェイクはそうぼやくと虎徹の目の前まで歩み寄り、彼の健康的な顎を右手で掴んだ。
鼻がぶつかりそうなまでに二人の距離は近付く。
それでも虎徹は屈せずにジェイクを睨み付けていた。

「まあ、お前がそうやって見栄張ってんのもソソられるんだがなぁ…」

ジェイクの低い声が虎徹の鼓膜を振動させる。
唇の隅を容赦なく舐められ、虎徹はぴくりと頬を揺らした。





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