痛み分け
33
大きな爆発音が外から店内へと響いて、店に戻って珈琲を啜っていた虎徹は席から立ち上がり、驚きの声を上げた。
「な、何だ…ぉわっ!?」
窓から蒼い光が強く射して、虎徹はテーブルの下へと咄嗟に伏せた。
その光がユーリの蒼い炎だと理解した虎徹は、一体何があったのか確認しようと屈んだまま扉へと向かった。
しかしそれよりも早くアントニオに腕を掴まれて、虎徹の身体は彼の胸へと引き寄せられる。
それと同時に大きな衝撃が店内を揺るがして、パラパラと天井から破片が落ち虎徹とアントニオに襲いかかった。
アントニオは虎徹を守るためにネクストとしての能力、硬化を発動させて身を呈した。
「っ…」
「中に居ろ、虎徹。その方が安全だ。外はもっとヤバいぞ」
「でも、あれはユーリだ!あいつ、誰かと戦ってやがるんだぞっ」
アントニオの腕から逃れようと虎徹は暴れるが、彼はビクともぜすに虎徹を腕の中へと囲う。
くそっと呟き舌打ちすると、爆音と振動に気付いたイワンとカリーナが奥の部屋から飛び出して来た。
「今の何っ!?」
「どうしたんですかッ!!」
「イワン、カリーナ。お前たちは奥の部屋に戻ってろ」
アントニオが虎徹の身体を押さえたまま、二人の姿を捉えて言葉を吐き出す。
二人のそんな姿にイワンとカリーナは戸惑いを隠せないままお互いの顔を見合わせて、そしてアントニオへと視線を移した。
「でも…」
「政府の奴らだったらまずい。お前たちはいつでもこの店から逃げられるようにしておいてくれ」
イワンの言葉を遮って口を開いたのは虎徹だった。
虎徹はアントニオの胸を拳で軽く叩いて、視線を向ける。
アントニオはその視線に気付くと、大きな肩を竦めてイワンとカリーナの方へと向き直った。
「イワン、カリーナ、俺たちは裏から出よう」
「何言ってんのよ!」
「そ、そうですよ!まだ政府の人間ってわけじゃないですし…」
「イワン、カリーナ」
反論する二人の名前を呼んだ虎徹は、店の裏口を顎でしゃくり外へ出るように指示した。
イワンは不満げな表情で虎徹を見詰めた。
「虎徹さん!」
「今、ユーリが外の奴を相手にしてるんだ。終わったら連絡するから、それまで隠れていてくれ」
心配すんな。
そう言って虎徹は笑い、イワンの肩に手を置いて何度も叩いた。
イワンは虎徹のそんな姿に目を伏せて、わかりましたと小さく頷く。
「私は嫌よ」
腕を組み凛とした声で拒否の言葉を口にするカリーナに、虎徹は苦笑を浮かべた。
「カリーナ、頼むから…」
「あんたの言葉なんて、信じられるわけないでしょう!?」
キッと鋭い眼差しで睨み付けられて、虎徹はそうだなと眉を八の字にさせて肩を落とした。
カリーナは虎徹のそんな表情を見て、彼の珍しい姿に目を見開き困惑した。
「カリーナ」
「…な…何よ…」
虎徹はカリーナの前まで歩み、彼女の小さな頭を優しく撫でた。
カリーナは反射的に虎徹を見上げて、優しい笑みを浮かべる彼に頬を染めて目を逸らす。
ずるい。
カリーナは心の中で悪態を吐き出して、虎徹の節くれ立った手の温度を感じた。
「いつも心配かけて本当に悪かったな」
「……」
「これ以上、お前やイワンに心配かけないようにするから。やばかったらユーリ連れて逃げて、ちゃんとお前に連絡するから、な?」
約束だ。
そう言って虎徹は指切りだと子供染みた契りをカリーナとして、にっと笑顔を浮かべた。
カリーナは暫く沈黙して虎徹を見詰め、そしてわかったわよと観念の声を上げた。
「絶対、何があっても連絡してよ!絶対だからねっ!」
「ああ、わかったよ」
虎徹は頷いて、アントニオに視線を送った。
アントニオは虎徹の視線に目だけで答えると、彼はイワンとカリーナを連れて店の裏手へと向かって行った。
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