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痛み分け
31




「ええーっ!」
「こんな通行の多い所ではしゃぐ常識のないおじさんなんてやっぱり信じられませんよ!」

そりゃないぜバニーちゃん。
ブーブーと唇を尖らせて文句を言う虎徹の姿を見詰めて、それなら歳相応の振る舞いをして下さいとバーナビーは眼鏡を押さえて言葉を返した。

暫くそんなくだらない遣り取りをしていると、虎徹とバーナビーは最初に待ち合わせをしていたカフェテリアに辿り着いた。
虎徹は若者に人気のお店の看板を見上げてもう着いちまったのか、と心の中で呟いた。


「久々に息抜き出来たわ、ありがとなバニー」

虎徹はにこりと笑ってお礼を口にした。

「息抜きだったんですか…。それならもっと色々話を聞いてしまえばよかった」

「え、あ…それはもう勘弁して下さいバニーちゃん」

ポーカーフェイスが崩れるだろ、と真顔で言う虎徹の冗談をはいはいと軽く受け流して、バーナビーは虎徹

の方へと身体を向けた。
バニーの真剣な姿に虎徹も無意識に背筋を伸ばす。

「…バニー?」
「おじさんが、本当に僕のことを心配してくれてるんだって気持ち、少しは分かったと思います。…ありが

とうございます」
「え…あ、ああ…」
「では、この名刺の人物のこともありますし、色々と調べてみることにします。おじさんは皆さんのところ

に戻りますよね。…僕の分の挨拶もお願いして良いですか?」

バーナビーはお店に居た三人の姿を思い浮かべてそう言った。
虎徹は大きく頷く。

「おう、わかった。また時間が開いたらさ、店に顔出してやってくれ。アントニオもお前の両親に世話にな

ってるからさ、お前の顔見たいと思うだろうし」

イワンに言っていつでも通れるようにしておくからさ。
バーナビーはわかりましたと答えて片手を上げた。

「ウロボロスのことで何か掴んだら連絡ください。僕も、キースという男に接触して何か掴めたら連絡しま

す」
「ああ、わかった」

虎徹はバーナビーの肩を軽く叩くと彼から離れた。
バーナビーは軽く頭を下げて踵を返し、人混みの中へと消えていった。
虎徹は彼の背中が見えなくなるまで見送って、そして先程まで居た親友の経営する店へと向かって歩き出し

た。

「……お?」

まるで虎徹が歩き出すのを見計らったかのようにポケットの中で軽快な音楽とバイブが震えて、自分専用の

携帯が鳴っていることに気付いた。
虎徹は携帯を取り出して、特に画面を確認することなく通話ボタンを押して電話に出た。

聞き慣れた安定感のある声が虎徹さんと名前を呼んで、虎徹はよう、と返事をして頬を緩める。
相手はユーリだ。

『虎徹さん、今どこに居るんですか?』
「…今?今は、バニーと別れてアントニオの店に戻るとこだけど?」

虎徹の声に安堵の吐息を吐き出すユーリの声が聞こえる。

『それは調度良かった。私も今からそちらに向かうので、お店で待っていて下さい』
「…何かあったのか?」

淡々としたユーリの声色はいつもの素っ気ないものだが、虎徹には少し焦っているように感じられ片眉を上

げた。
長年一緒に行動している虎徹にとってユーリのほんの僅かな声の変化はとても大きく、彼はどうしたのかと

不安気にユーリに訊ねた。

『…いえ。これといって何かあったわけではありませんよ』

ユーリの声から焦りが消えて、いつもの淡々な、しかし虎徹を労る優しげな口調へと変わった。
虎徹は自分の聞き間違いだったかと首を傾げて、そしてユーリに分かったと頷いた。

「じゃあ、店で待ってるからな」
『はい。直ぐに向かいますから』

また後で、と言う言葉と共に虎徹は電話を切った。
暫く携帯の画面のユーリという文字を見詰めて、そして無造作にポケットに突っ込んで歩き出した。





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