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痛み分け
30


きっぱりとした口調で主張するバーナビーの言葉には悪意はないだろう。
しかしその言葉は虎徹にとって毒以外の何物でもなく、彼は頭を下げたまま表情を歪めた。

「僕はあなたに感謝しているんです。両親を殺したウロボロスに復讐するために生を与えてくれたんですから」
「…はは、そっか…」

何て皮肉なのだろうか。
虎徹は酷い顔を手の平で覆い隠してそう思った。
自分が彼に復讐のきっかけを与えていたことは彼と出会って、いや出会う前から薄々気付いていた。
しかしバーナビーの口からそんな言葉、本当は聞きたくはなかった。

「…感謝なんかされるつもりはないさ」

寧ろ罰を受けるべきだ。
虎徹は緩やかに首を振ってそう呟いた。
結局、自分がやったことは唯のエゴでしかなく。
それを正しいと呼ぶにはあまりにも独り善がりだった。
そんな独り善がりをまだ二十数年しか生きてない青年に押し付けてしまった自分は何て罪深いのだろう。

「おじさん、」

不意に彼の色素の薄い白い手が伸びてきて虎徹の頬に触れた。
緑色の瞳がこちらの様子を窺うように覗いてくる。

「…少し、言い方が悪かったですね」
「…?」
「確かに、僕にとって復讐が全てで、そのために自らの命を脅かしてまで生かしてくれたあなたに感謝しています。でも、それだけじゃありません。こうやって二十四年間生きてこれたのは、色んな人との出会いがあってこそだと僕は思っています。…だから、あなたは後悔はしないで下さい」

ぽんぽん。
バーナビーは虎徹の頬から手を移動させて不器用に頭を撫でた。
虎徹はバーナビーのその動作に驚きながら目をぱちくりとさせていると、長い指先は今度は虎徹の額に向けられた。

「いてっ!」

思い切りデコピンをお見舞いされた虎徹は額を押さえて呻く。
その姿にバーナビーは間抜け面してるからですよと頬を緩めて笑う。

「お前…ほんっとに可愛くない!」

真っ赤な額と唇を尖らせる虎徹の姿を見て我慢できなくなったバーナビーは口元を押さえて笑った。
震える肩が押し殺した笑みに、笑うならちゃんと笑えよと虎徹は声を上げた。






「今日は色々とすみませんでした」

暫く笑い、バーナビーのツボがおさまった頃、彼は息を吐いて虎徹に謝罪の言葉を口にした。

「…うん?」
「おじさんに聞かれたくない話ばかり、聞いてしまって」

虎徹とバーナビーはお店を出て、最初に待ち合わせをしたカフェテリアへと歩いていた。

パン屋と雑貨屋の間の壁を抜けて、二人は人通りの多い道を緩やかな足取りで進む。

「まぁ、本当のことだしな。いつかは誰かに知られることだったんだ」

それがバニーだっただけでさ。
虎徹はそう言って小さく笑みを零した。

「ま、この話を聞いてバニーちゃんが俺の見方を変えてくれたらラッキーってなもんだ」

虎徹がぼんやりと空を見上げる。
その様子をバーナビーは横目で見遣った。
空の色を吸い込んだ金色の瞳がとても綺麗だと感じられて、バーナビーは彼のことをもっと知ってみたいと無意識の内にそう思った。

「…おじさん」

ポツリと呟かれた言葉に反応して、虎徹は空からバーナビーへと視線を移した。
バーナビーの真剣な眼差しが虎徹の姿を捉えて、虎徹は自然と足を止める。

「…今なら、あなたを信じても良いと思えます」

バーナビーの言葉の意味を理解するのに虎徹は少し時間が掛った。
まさか彼の口から直接的な言葉を聞けると思っていなかった虎徹は驚きと喜びのあまりバーナビーの鍛えら

れた身体へと思い切り飛び付いた。

「まじ!?本当かっ、バニーちゃんっ!」
「お、おじさん!!こんな人の多い所ではしゃがないで下さい!」

一体どこからそんなパワーが出てくるんだというほど、虎徹はバーナビーを振り回した。

強引に掴まれた腕や、振り回されて髪が乱れる。
バーナビーは虎徹に制止の声を浴びせて、それでも止まらないこの子供のような大人にやっぱり先程の言葉は撤回しますと言った。





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あきゅろす。
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