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痛み分け
3



こうして僕は彼女の元で生活を始める。
その前に、ネイサンという人物の事を少し話しておこう。
彼は、オネエ系と呼ばれる人間、らしい。
僕は子供の頃、そんなタイプの人間と会ったことはなくて、ネイサンに彼という表記をしてきつく怒られたことがあった。
それ以来、僕は意識してネイサンを彼女、と呼ぶことにしている。
彼女はとても怒ると恐くて、とても男らしくなるんだけれど。僕は二度と過ちを犯したくないから口には絶対にしなかった。
まぁ、大人になれば僕の知り合いに多少とはいえそういった人間が周りに増えたが、子供の頃はそれはそれは苦労した。


そして。
彼女の元で生活を初めて、僕はあの熱い夜の夢を何度も見る事となる。

夢の始まりは誰かが怪我をした僕に魔法の呪文を唱えてくれるところからだ。
そこから紙が燃えるように視界が赤くなり、炎が僕の身を焼こうと燃え盛る。
そうして倒れている両親と男の右腕が浮かび上がるのだ。
男の手には蛇のタトゥーが刻まれていて、僕はそれを呪うように見詰めていて。
男の嘲笑う声が僕の耳元に届いて、僕の左胸はぽっかりと空洞を作るのだ。
倒れた僕の視界の中で、男の蛇が浮かび上がり、僕はひたすらその男を睨み付けて、赦さないと血塗れで鉄の味しかしない口内で何度も吐き出した。

そうして僕は、夢に魘されるようになって。
漸く僕自身の役割を思い出したんだ。
死んだのに生き返ったのは、そう。
復讐するためなのだと。



「ネイサン、あなたはこの蛇のことを何か知ってますか?」

両親を殺した紋章の絵をネイサンに突き付けて、僕は彼女に聞いたことがあった。
彼女はさっと顔色を変えたけれど、何も口にはせずに。
ただ、無言でその絵を見詰めて、首を左右に振るだけだった。

僕は彼女の口を割らせるために、勉強の合間に聞き込みをした。
微々たる情報でも僕は両親を殺した蛇のタトゥーに近付けるのならと走りまわった。
一年、二年、月日が過ぎるのは早く、僕はもう18歳になっていた。

沢山の資料を、こうして誕生日を迎えた日にネイサンの前に叩きつけた。
彼女は何も言わないでいるだろう、そう思った。

…けれど違った。

彼女は僕の前に一通の手紙を差し出した。
そして、僕に蛇について話してくれた。

ウロボロス

彼女がその名を口にしたとき、ゾクリと身体に悪寒が走った。

「ウロボロス、というのは組織の名前。簡単に言えばマフィアのようなものだけれど、もっとややこしい組織。あなたは、ネクストという存在を知ってるかしら?」
「ネクスト?いえ、それは知りません」
「まぁ、政府の極秘の極秘ですものね」
「…それは知ってます。前に政府の管理システムをハッキングしようとしたのですが、失敗しました」

あらまぁ。やだ。あなたそんなことまでしたの。よく捕まらなかったわね。
ネイサンが薄目で僕を見詰める。その視線にコホンと咳払いをして、僕は話を続けた。


「その、ネクストってものがウロボロスと関係しているのは知っています。ですが、それは何ですか?両親を殺したことになにか関わりが?」
「関係…。そうね…ネクストは関係があるわ」

ネクスト。
それは不思議な能力を使える人間のことだとネイサンは言った。
不思議な能力、とは人間が一般的に持っていない特殊な力だという。
たとえば、炎を出せたり、風を操ったり、物を凍らせたり。
能力には危険度があり、政府は能力者を見つけて隔離しているという。

「ウロボロスはね、そんな能力者の集まりなのよ。正確に言えば、隔離され迫害され、組織の人間に恨みを持った能力者の組織」
「……」
「あなたのご両親はね、元は政府の人間だったの。知ってたかしら?」
「……それは、知りませんでした」
「まぁ、データは全て政府側で消去されているし、知らないのも無理はないわ。知っているのは政府側の一部の人間と」
「能力者だけ、ですね」

鋭いわね。
ネイサンは頷いた。

「…政府から逃げた能力者が僕の両親に何らかの恨みがあり、殺した。ということですか」

無表情で言うと、彼女は緩く首を左右に振った。

「そこはわたしにもわからないのよ。でも、たしかに接触しているわ、能力者と…」
「それは誰です!?」

ネイサンに詰め寄り僕は彼女の肩を揺さぶった。
彼女は小さな声であなたの目の前に居るわ、と言った。







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