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痛み分け
28




「それより、これ。お前に渡しておくわ」

バーナビーは虎徹に差し出された名刺を頷いて受け取った。

「警察が二十年も昔の事件を追うわけがないと俺は思う。ネクスト絡みの事件で警察に圧力が掛かってる筈だしな」
「…そうですね」
「…もしかしたらあのキースって奴。その謎に気付いて独断で捜査してるのかもしれないな」
「それなら何か情報が手に入るかもしれませんね。政府に圧力を掛けられてはいるでしょうが一応捜査は一通り行っている筈ですし、資料も残っている筈…」

バーナビーは名刺に書かれたキース・グットマンの文字と電話番号を見詰めて、一度接触してみますと虎徹に言った。

「ああ。だが、気を付けて会った方が良い。さっき後を付けてた連中も気になるしな」
「わかってますよ、それぐらい」

あなたって本当にお節介なんですね。
バーナビーはそう言って笑みを浮かべた。
優し気な笑顔を浮かべるバーナビーに虎徹は驚いたが、努めて顔に出ないように試みた。

「おっ!もしかしておじさんを信用してくれるのか?」
「…そういうの自分で言うから信用できないんですよ、おじさん」

バーナビーは溜息を吐き出して、でも、と言葉を付け足した。

「…あなたは僕を助けてくれましたし、その行動には嘘はないと思っていますよ」

信用するとは別として。

「お前、可愛くないなそういうとこと」
「おじさんに可愛いなんて思われたくないですし、あなたはよく自分のことをはぐらかしますから信用できないと言われても自業自得でしょう」
「えー…」
「それなら、どうして僕に嘘なんか吐こうとしたんです?それと、能力の代償もはぐらかしたまま話を進めましたよね」

バーナビーの言葉に虎徹は頬を掻いて誤魔化すように笑った。

「…ひみつ、とか言っちゃ駄目?」

へらへらと笑う虎徹にバーナビーは冷ややかな眼差しを向ける。
虎徹はそんなバーナビーの姿を見詰めて、観念したのか溜息を吐き出すと口を開いた。

「…俺の能力は癒すってものだってバニーは分析しただろ?正確には癒す、というより移し取るっていったほうが正解なんだ」
「移し取る…?」
「ああ。例えば、ユーリのように炎を起こすには酸素と振動が必要になる。それと同じように、俺の場合は自分の健康な肉体が必要なんだ。相手の身体を治すために、自分の身体の同じ部分が必要になるってわけ。これが代償。まぁ、代償っつーても大なり小なりだな」

虎徹はそう言って自分のシャツを無造作にたくし上げた。
無駄な肉のない細い身体にはホテルで出会ったときと同じように、腹部に包帯が巻かれている。

「あの日、ユーリに殺された男が居ただろ?えっと、名前は確か…」
「ハワード・アンダーソンですね」
「そう、そのハワードとかいうじいさん!バニーと会った日、ピンピンしてたと思うが、実は一週間前に別の勢力マフィア襲われてな、ここに穴を開けたんだよ」

そう言えば、確かにそんな情報があったなとバーナビーは思考を巡らせた。

「…そうだったんですか」
「ああ。で、俺は依頼された通りにその傷を自分の身体に移し変えた。その代わり、他人の傷は治りが早いんだ。まぁ、痛いのには変わりないんだけどな」
「…では、自分で怪我した場合はどうなるんですか?あと病気は?」
「あー…」

バーナビーの問いに虎徹は言葉を濁した。
言いにくそうに口を開いたり閉じたりしている。

「なんて言うか…自分で怪我した場合、直ぐに元通りっていうか…傷がなくなるっていうか…病気もしないし…」
「どういうことですか?」

首を傾げるバーナビーに、虎徹はどう説明しようか腕を組んで考える。
結局、説明より実際に見てもらった方がわかりやすいと考えた虎徹は、腰に提げたポーチからナイフを取り出して自分の手の平の上に掲げた。





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