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痛み分け
26



扉の前でガチャガチャと物音と、少女の不機嫌そうな声が虎徹の元までしっかり届いて、虎徹はバーナビーにカウンターの下へと隠れるよう指示をした。

「カリーナと…もう一人居る。…多分、お前の後を付けてきた一人じゃないか?」
「…そうでしょうね」

バーナビーは小さく頷くと、物音を立てないよう静かにカウンターへと入り込み、周囲から見えないよう意識して隠れた。

「ちょっと、何度も言わせないでよ!バーナビー・ブルックスなんて奴、私は知らないしこの店には居ないわ、よ…」

大きな音を立てて扉を開けた少女、カリーナは店の中に珍しい人物がいることに気付き目を見開いた。
どうしてあんたがここに居るのよ!カリーナは口だけ動かして虎徹に言う。
虎徹はその言葉に内心苦笑した。

「おっ!お帰り。カリーナ」
「……。ただいま」

虎徹がにこりと笑みを浮かべて片手を上げたため、カリーナは渋々それに従い挨拶を返した。

「あれ?話し声がしたと思ったんだが、お前一人か?」
「居るわよ。バーナビー・ブルックスとかいう人を捜してるみたいなんだけど…」

カリーナがそう扉の外に視線を向けると、彼女の後ろで動く気配を感じた。
見るからに好青年といった感じの男が扉から現れて、カリーナは男から離れるため虎徹の元へと歩み寄る。
男は青いジャケットの胸ポケットから警察手帳を取り出して、顔写真の映ったところを二人に見せると爽やかに笑い自己紹介を始めた。

「私はキース。キース・グッドマンと申します。バーナビー・ブルックスさんを捜しているのですが、こちらに居られるでしょうか?」

キースと名乗った男はそう言って店内を見回した。
カリーナは嫌そうに顔を顰めて、そんな奴は居ないわよと唇を尖らせた。

「いや…、ここには俺だけだぜ?他の連中は買い物に行ってるよ。ホントは店番ぐらいしてやりたいんだがな、俺がやると皆に迷惑かけるから」

だから今日はお店、休みなんだ。
虎徹はそう笑うと、キースはそうですかと手を顎に当てて呟いた。

「…あなた、お名前は?」
「…俺?俺は虎徹だけど…」

キースの質問に虎徹は一瞬眉を潜めた。
カリーナはもう良いでしょ、とキースに口を挟もうとしたが、それよりも先にキースが言葉を紡いだ。

「虎徹さん、あなたは今まで一人で居たんですよね?」
「…ああ」
「それならどうしてカップが二つ、テーブルに置いてあるんですか?」
「……」

しまった。
虎徹はテーブルに置いてあるカップを見てそう思った。
一人しかいないのにカップが二つも出ているのは、確かにおかしい。
虎徹は二つあるカップをどうやってはぐらかそうか思考を巡らせた。
流石にこれ以上店の中を探られては困る。

「…全く、これだからおじさんは嫌だわ!」

助け船を出したのは隣に居たカリーナだった。

「洗うのが面倒臭いからって何個もカップ使うの止めてって言ったでしょ!だからこんな変なやつに疑われるのよっ」
「変って…私のことかい?」
「あんた以外に誰が居るのよ」

苦笑を浮かべたキースに追い打ちを掛けるようにカリーナは彼を睨みつけて答えた。

「ああ、俺が悪かった、悪かったから。カリーナもそれくれいにしてくれ。キースさんに失礼だろ」
「何よ。最初から居ないって言ってるのに、それを疑うのが悪いんでしょ」
「うん、そうだね。確かにそうだ。しかしこれが私たち警察の仕事だから。悪く思わないでくれ」

にこにことカリーナに向けて笑みを浮かべたキースは、虎徹へと向き直り今日のところは失礼するよと言った。

「バーナビー・ブルックスさんにお会いしたら、あなたのご両親にのことでお話したい。そう伝えて頂きたい。…これ、私の名刺です」
「……」

虎徹は無言でキースの名刺を受取った。

「では、私は失礼するよ」

キースは二人に軽く頭を下げると、踵を返してお店を後にした。
扉のベルがカランカランと鳴り、彼が店から離れていく。
彼の背中が見えなくなるのを最後まで確認した虎徹はほっと安堵の息を漏らした。





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